自然放射線を理解する

当ブログに寄せられるコメントを見ていると、自然放射線に対する質問や意見が結構あるので、チャート式で、分かりやすく整理しておきたいと思います。

 

イラストを見て頂ければ、私たちが地上で受けている自然放射線は、大きく4種類に分類されることが分かるかと思います。一つ一つ見ていきましょう。●二次宇宙線による外部被ばく
宇宙から地球に飛び込んでくる宇宙線を一次宇宙線と呼びます。これは、ほとんどが陽子で、地上までは届きません。一次宇宙線が空気中の原子や分子と衝突して生まれるのが二次宇宙線。その内、地表にまで届くのは、ほとんどが素粒子の一種のミュー粒子です。
よく、飛行機に乗ると余計に外部被ばくをすると言われますが、これは事実です。高空では、二次宇宙線の内のガンマ線が存在しますので、これが航空機内にまで届きます。また、海抜数千メートルという高地には、二次宇宙線のガンマ線が、ある程度、届いていると思われます。

●大地と建物からの外部被ばく
岩盤の中には、ウラン238をはじめとするウラン系列と、トリウム232をはじめとするトリウム系列の核種、さらにカリウム40やルビジウム87が含まれています。これらが発するガンマ線が「大地と建物からの外部被ばく量」の元です。特に、花こう岩にはウラン238が多く含まれています。
建物も含む理由は、建材の石やコンクリートなどに、自然に存在する放射性物質が入っているからです。

日本国内で、「大地と建物からの外部被ばく量」の値を見ると、おおむね、西高東低の傾向を示します。これは、西日本に花こう岩質の岩盤が多いのと、関東では、関東ローム層によって岩盤自体が厚く覆われていて、地表から出てくるガンマ線が少ないからです。

注意したいのは、人工放射線(今で言えば、福島第1から飛散した放射性物質による放射線)と違って、「大地と建物からの外部被ばく」では、線源となる原子が岩の中や石の中なので、これらを吸い込む可能性は少ないということです。
自然放射線による外部被ばくと人工放射線による外部被ばくを同列に語る人たちがいますが、この点を見落としているか、意図的に誤魔化しています。

●呼吸で摂取
呼吸で摂取した放射性物質による内部被ばくは、主にラドン222によって引き起こされています。ラドン222は、花こう岩などの中にあるウラン238が崩壊する過程で生じますから、世界中どこにでも微量は存在します。

自然放射線の枠外ですが、ラドン222による内部被ばくは、ウラン鉱山の近くでは深刻な問題を引き起こします。日本で唯一のウラン鉱山があった鳥取県の人形峠や、アメリカ・アリゾナ州のレッドロック鉱山付近では、たくさんの人が肺ガンで亡くなりました。

●飲食で摂取
飲食による内部被ばくに関連している自然の放射性物質は、カリウム40とウラン系列・トリウム系列の核種です。
よく、「カリウム40は天然のカリウムの中に0.0117%含まれている」と言いますが、世の中に天然でない原子は存在しませんから、岩石の中でも、野菜の中でも、水の中でも、人体内でも、そして、ドラッグストアで売ってるカリウムのサプリメントの中にも、0.0117%のカリウム40が含まれています。これから逃れようとすると、カリウム不足になってしまいますから、受け入れるしかありません。ただ、後述しますが、「カリウム40が止むを得ないから、セシウム137も止む得ない」という話にはなりません。

さて、自然放射線を考える上で、見落としてはいけない点があります。
それは放射線の種類。実は、自然放射線のうち、ガイガーカウンターなどの一般の空間線量計で検知できるのは、「大地と建物からのガンマ線」だけなのです。

 

内部被ばく関係はアルファ線とベータ線、二次宇宙線はミュー粒子という素粒子がほとんどだからです。「私たちは、自然放射線を年間2.42ミリシーベルト(日本では1.5ミリシーベルト)も浴びている」などと言って、実測された空間線量を過小評価しようとする人たちがいますが、これはまったくの誤魔化しです。実測値から引き算できるのは、0.05μSv/h(=0.3mSv/y)の「大地と建物からの外部被ばく量」だけです。以下、自然放射線に関する気になる話を二つ紹介しておきます。
●高自然放射線地域
世界には、自然由来の「大地と建物からのガンマ線」が高い地域があります。

インドのケララとブラジルのガラパリでは、トリウム232(基本はアルファ崩壊ですがガンマ線も出す)を含むモナザイトという鉱石が原因となっています。
イランのラムサールでは、温泉の噴出によって溜まったラジウム。中国の陽江は粘土層に含まれるウラン238が崩壊してできるウラン系列核種が発するガンマ線が原因です。これらの地域は、他の地域と比べても、がん発生率に差がないとされています。その理由は、今も研究が続いています。ただ、これらの地域の高くなっている放射線は、主に「大地と建物からのガンマ線」によるものだけだということは、理解しておきましょう。
さらに、線源となる原子のほとんどが、岩や石ころの中に存在しているので、放射性物質そのものを吸い込んで、内部被ばく量が多くなることは、ほぼ考えにくい環境です。●カリウム40とセシウム137
最後は、飲食で体内に入ってくるカリウム40と、カリウムに化学的な性質が似ているセシウム137についてです。「カリウム40は、体重60kgの成人男子の体内に約4000ベクレルもある」と言われます。これは間違った数字ではありませんが、4000ベクレルという、いかにも高そうな数値を引き合いに出して、人体がカリウムと勘違いして取り込んでしまう放射性セシウムの影響を過小評価しようとする悪意に満ちた宣伝です。
カリウム40は、体重1kgで計算すると66.7ベクレル/kgしかありません。米や肉や野菜の500ベクレル/kgという基準値が、いかに高いものか、お分かりいただけると思います。
そして、カリウム40の半減期は12.8億年。セシウム137の半減期は30年です。仮に同じ原子数が存在すると、セシウム137はカリウム40に比べて、時間あたり、なんと4267万倍の放射線を出します。
ほんの少しのカリウムが、セシウム137と入れ代わっただけで、恐ろしいことが起きるのです。以上、「自然放射線で騙されないための知識」として、ご理解頂ければ幸いです。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください