家康のお茶とセシウム137

遠く離れた静岡県にまで… 福島第1から放出された核分裂生成物によるお茶の汚染が止まりません。
本山茶から規制値超の放射性セシウム検出」。
藁科「製茶」で規制値超す」。

本山(ほんやま)茶とは、静岡市北部の安倍川と藁科(わらしな)川流域で栽培される最高級のお茶。徳川家康が愛飲したことで知られ、その後も将軍家御用達のお茶として珍重されてきました。

さて、この間のお茶の汚染をめぐる報道で、一点、曖昧にされていることがあります。それは、茶木は葉からもセシウム137を吸収するということです。

農業の世界には、葉面散布という肥料の与え方があります。農作物(植物)が葉から栄養分を吸収する能力を利用したもので、肥料成分を水に溶いて、霧状にして散布します。特に、新芽を出したり葉が増えたりする成長期には、農作物は、葉の表面から効率よく栄養分を吸収するのです。いわば葉面吸収。

セシウムは、植物にとっての三大栄養素のひとつであるカリウムと化学的性質が似ています。悲しいかな、茶木は、大気中のチリや雨とともに降ってきたセシウム137をカリウムと勘違いして吸収。生体内に蓄えているのです。葉面吸収を起こすために、大気中を舞うセシウム137の量が大量に必要かというと、そういうわけでもありません。微量のセシウム137を見事に集めてしまうのです。土に染み込んだ放射性物質を根から吸収しているだけではないのです。

しかし、国の発表や報道では「放射性物質の葉面吸収」に積極的に言及していません。それは、野菜類の汚染の問題で「洗えば大半は落ちる」的な言い方で誤魔化してきたことが、ばれてしまうからでしょう。
思い出してみましょう。最初に問題になったのは、ホウレンソウや小松菜、サンチュなどの葉物野菜でした。いかにも、空から降ってくる放射性物質が葉に付着しやすそうです。事実、葉物野菜は、大気中を舞うカリウムを力の限り吸い込みたいから大きく葉を開いているとも言えるのです。そして、そこに降り注いだのが放射性のセシウム137でした。葉に付着するだけはなく、どんどん生体内に吸収されていきます。水洗いによって除去できる放射性物質はせいぜい1/4程度のようです(このデータはヨウ素131に関するもの)。

さて、話を本山茶に戻しましょう。
江戸時代だったら、「お上の御茶に毒を混ぜた不届き者」として、東電屋の主(あるじ)と番頭は即刻打ち首。いや、それだけでは済まないでしょう。商家なので「お家お取りつぶし」とは言わないかも知れませんが、一族や関係者まで、広くその罪を負わされたことでしょう。
原子力発電の危険性を十分に知りながら、それを強引に推し進めてきた東電や政治家(特に自民党)、さらに原子力安全委員会などの刑事責任が問われることはないのでしょうか?安易に警察や検察の介入を許すと逆に真実が覆い隠されるので注意は必要なのですが、情報の全面公開を前提に刑事責任の追及もあってしかるべきだと思います。
「三菱自動車製大型自動車のクラッチ系統の欠陥による死亡事故」「JR西日本福知山線の脱線事故」「パロマ工業製ガス湯沸器による一酸化炭素中毒事故」などでは、当該企業のトップ(役員)が業務上過失致死傷の刑事責任を問われています。

附記:
今回の件に関する、川勝知事をはじめとする静岡県の対応については、ちょっと疑問を感じています。「暫定基準値が高い低い、越えた越えない」に終始していますが、これは気をつけないと、生産者と消費者を対立させることになります。消費者としては「少しでも危険なものは飲食したくない」という思いがあります。一方で、生産者は「風評に騙された消費者が離れてしまった」となります。
大切なことは、福島第1原発の事故が起きる前は、静岡県はもちろん、日本中のどこでもセシウム137はゼロにだったということです(より正確には限りなくゼロに近かった)。基準値うんぬんの話の前に、事故を起こしたことに対する東電と政府の責任を追及する立場を明確にすべきでしょう。
そして、少しでも危険なものは出荷しないと。生産地としては涙を呑む思いなのは分かりますが、まずは原則的な立場から補償を求めること。そして、汚染値を少しでも抑えていく方策を考えるしかないでしょう。
泥縄ではあるのですが、農水省では、カリウムを葉面散布することで、茶木内のセシウム137の濃度を下げられないかという研究を始めたようです。いわば、トコロテン式にセシウム137を押し出してしまおうと。可能性はありますが、新芽の成長期の問題も絡みますので、そう簡単ではないでしょうけど。

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