「渓流の女王」を襲う恐怖

福島県内の一部で、天然のヤマメから放射性セシウム(セシウム137とセシウム134と思われる)が検出され、出荷停止指示が出されました。
その美しい姿から山女とも山女魚とも書かれ、「渓流の女王」として釣り人たちの人気を集める魚です。

「天然のヤマメなんて、食べたことも見たこともないから関係ない」と思われる方もいるかも知れませんが、事はそれほど単純ではありません。
ヤマメは肉食の淡水魚で、水生昆虫や落下してきた昆虫を餌としています。その住処は、緑に包まれた清流。昆虫の命を育む豊かな森ときれいな水がなければ生きていけません。
ヤマメは、どこから放射性セシウムを取り込んだのでしょうか?水と餌からしかあり得ません。…と言うことは、清流の源であり、昆虫の住処である森が、すでに核分裂生成物(放射性物質)によって、かなり汚染されていることです。

放射性セシウムとの関係を確かめるために、ヤマメの体が、どんな成分で成り立っているのか、『食品成分データベース』で調べてみました。
カリウムがとても豊富な魚です。カリウムは、ほとんどすべての生きものにとって必須の栄養素。もちろん人間にとっても重要なミネラルの一つです。私たちの先祖は、縄文の昔からつい最近まで、ヤマメを重要なカリウム源として食べてきたはずです。

一方、原子の周期表で見ると、セシウムとカリウムは同じ一番左の列(アルカリ金属)に属し、その化学的性質は似ています。生体は、セシウムをカリウムと勘違いして、体内に溜め込んでしまうのです。そのセシウムが放射性であるかどうかもお構いなしです。
カリウムを濃縮するという生きるための機能を逆手に取るかのように、放射性セシウムがヤマメの体内に蓄積されていくのです。

しかし、話はここで終わりではありません。やがて、ヤマメは野鳥に捕まり、その栄養源となります。野鳥も体内で放射性セシウムの濃度を高めます。同時に、糞の形でそこら中にばらまくことになります(同じ川に棲むアユやアマゴも汚染されていると考えるのが自然ですから、鳥はヤマメ以外からも放射性セシウムを摂取します)。
群れをなす鳥であれば、その住処の森は、放射性セシウムのホットスポットになるでしょう。その森から流れ出た水が、また清流に注ぎ込み… これは恐怖の食物連鎖。一度、核分裂生成物に汚された生態系が元に戻るためには、少なくとも100年単位の時間が必要になります。
その鳥が渡り鳥だったらどうでしょう。海外のある場所に福島第1から漏出した放射性セシウムのホットスポットが出現する可能性もあるのです。

ヤマメにとって、最近の日本人ほど迷惑な存在はいません。乱開発によって住処となる清流を奪い取り、最後は核分裂生成物です。私は、今こそ、「ヤマメの住めない場所には人間も住めない」という考え方を持つ必要があると思います。その時に、私たちにとってもっとも迷惑な存在は、原子力発電所に違いありません。

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