デーモン・コア 再臨界を理解するために

福島第1。使用済み核燃料プールについては、一応、循環冷却システムが稼働し、当面のさし迫った危機からは脱したと言えます(大きな余震や機械・設備の不具合から、冷却システムが止まったり、プールからの水漏れが起きれば、使用済み核燃料が、みずから発する崩壊熱で溶け出す可能性があることを忘れてはなりませんが)。

一方、炉心でも注水による冷却を進めていますが、1号炉から3号炉まで、いずれも圧力容器に穴が空いているため漏水が多く、綱渡りの冷却が続いてます。
そんな中で、核燃料がふたたび溶融するのではないか… 再臨界が起きるのではないか… と危惧する声も出ています。ここでは、再臨界を正しく理解するために、そもそも核物質の臨界とは何なのか、そこまで立ち帰って説明していきます。怖がるにしても、正しく怖がる必要があるからです。

人類が核の恐怖に晒され始めたばかりの頃、すでに、実に簡単に起きてしまう臨界の怖さを教える重大な事件がありました。
舞台は、広島と長崎に投下された原爆を開発したアメリカ・ニューメキシコ州にあるロスアラモス国立研究所。原爆投下から間もない1945年8月21日、66年前の今日のことです。アメリカは、さらに破壊力の大きな核兵器の開発に躍起になっていました。
ロスアラモス国立研究所に所属する若手の物理学者ハリー・ダリアン(1921~1945)が実験に使っていたのは重さ6.2kgの球状のプルトニウム(大半がプルトニウム239で、一部、プルトニウム240を含む)の塊です。

 

核兵器や原子炉で使う連鎖的核分裂反応(臨界反応)を起こす物質として現在知られているのは、ウラン235とプルトニウム239だけです。この二つは、ある濃度で、ある分量が、ある形に集まった時、臨界に達します。
連鎖的核分裂反応(臨界反応)とは、原子が二つに割れる時に飛び出した中性子が、近くにある原子に吸収され、そこで次の核分裂を起こすという反応を連鎖的に繰り返すことです。それは、原爆が爆発する瞬間であり、原子炉の中では緩やかな臨界状態を保って、その時に生じる熱で発電をしているのです。

さて、ハリー・ダリアンの手元にあった、のちにデーモン・コア(悪魔のコア)と呼ばれるプルトニウムの塊。6.2kgの球状だったのは理由があります。それは、もう少し大きかったら臨界に達する大きさだったのです。球状になっていたのは、より少ない量で臨界に達するからです。球は、他のどの形よりも、同じ体積に対する表面積が小さくなるので、表面から逃げる中性子がもっとも少ない形。…と言うことは、もっとも臨界に達しやすい形なのです。

球状のプルトニウムの塊。もう少し大きくすれば臨界が起きるのですが、それでは、実験をしている自分が確実に死んでしまいます。ダリアンは、別な方法でプルトニウムを臨界に近い状態にしようとしていました。
塊の周囲に中性子を反射する炭化タングステンのブロックを積み上げたのです。ブロックを増やせば、逃げる中性子が減るので、同じ量でも臨界に達しやすくなるのです。

データを計測しながら、慎重に作業を進めるダリアン。その時、手が滑って、1個のブロックをプルトニウムの塊の上に落としてしまったのです。たちまちプルトニウムは臨界に達し、臨界反応が始まりました。ダリアンは、慌てて落としたブロックをプルトニウムの塊の上からどけましたが、すでに5.1シーベルトという大量の放射線を浴びており、25日後に急性放射線障害のため死亡しました。
もし、ブロックをどけることができなかったら、臨界反応が続き、もっと大量の放射線が放出され、死者はダリアン一人では済まなかったでしょう。プルトニウムの塊は、みずから発する熱で溶け出し、形が球状でなくなるまで、臨界反応が続いたはずです。ダリアンの命の奪ったロスアラモス国立研究所のデーモン・コアは、翌1946年、カナダ出身の物理学者ルイス・スローティン(1910~1946)の命をも奪います。実験の形こそ違いますが、やはり臨界によって発生した大量の放射線による急性放射線障害でした。さて、ここで一つの疑問が生まれます。連鎖的核分裂反応(臨界反応)を起こすためには、プルトニウム239なり、ウラン235なりに中性子が飛び込む必要があります。じゃあ、最初の核分裂を起こすための中性子はどこから来るのかというものです。
実は、プルトニウムやウランは、自然に核分裂を起こして中性子を発しているのです。これを自発的核分裂(または自発核分裂)と呼びます。
以下に、1kgのプルトニウムとウランが1秒間に自発的核分裂を起こす確率を記します。

●プルトニウム239: 7.01回/秒・kg
●プルトニウム240: 489,000回/秒・kg
●ウラン235: 0.0056回/秒・kg
●ウラン238: 6.93回/秒・kg

プルトニウムの塊には、プルトニウム239だけでなく、必ずプルトニウム240が含まれています。プルトニウム240は比較的高い頻度で自発的核分裂を起こすので、最初の1個の中性子は簡単に生まれます。
ウランの方は、ウラン235は自発的核分裂の確率は低いのですが、必ず一緒に存在するウラン238は、十分に高い確率で自発的核分裂を起こします。1999年9月30日に起きた東海村JCO臨界事故は、ウランによるものでした。臨界状態への引き金を引いたのはウラン238の自発的核分裂だったと考えられます。

なお、原爆や原子炉では、連鎖的核分裂反応をより確実に、均等に起こさせるため、別に中性子源を用意しています。

デーモン・コアの事件は、いとも簡単に臨界が起きることを教えています。
問題は、「濃度」と「大きさ」と「形状」です。
よく、炉心溶融(核燃料の溶融)と臨界(再臨界)が混同されますが、これはまったくの別物です。核燃料が溶けていなくても再臨界は起きるのです。そして、臨界状態になれば、大量の中性子線が飛び出し、近くにいる人は確実に死にます。また、ヨウ素131やセシウム137、ストロンチウム90といったやっかいな核分裂生成物が、これまた大量にばらまかれます。

この記事はここまでとして、次の記事で、今後、福島第1では核燃料の溶融や再臨界が起きる可能性があるのかを考えていきます。

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