奇妙な一致

ここに1枚の地図があります。
「アメリカの原子力施設と乳癌患者の相関関係」(Dr. Jay Gould “The Enemy Within:The High Cost of Living Near  Nuclear Reactors”1996より)と題された地図。
一つ一つの枡目は、アメリカにあるすべての郡を示しています。黒く塗りつぶされている部分(郡)は、二つの特別な意味を持つ場所です。
1. 黒く塗りつぶされた約3000郡は、なんらかの原子力施設(原発・核兵器工場・核廃棄物貯蔵所)から160km以内にある。
2. 1985年~89年までの間に、アメリカで死亡した乳癌患者の2/3は、黒く塗りつぶされた約3000郡から出ている(=黒塗りは、乳癌による死亡の多発地域)。
次に示す地図には、全米にある原発を示します。
「乳癌による死亡の多発地域」が原発の所在地と、ほぼ一致するのが分かると思います。ただ、いくつか、原発がないのに乳癌が多発している地域があります。
そこでもう一つ。
最初の地図に、アメリカにある核施設の場所を重ねてみます。
「乳癌による死亡の多発地域」は、原発と核施設の周辺地地域と、ほぼ一致します。
この奇妙な一致は、何を意味しているのでしょうか?もちろん、アメリカが定めた安全基準を超える放射線量が、これらの場所で観測されたことは、何度か起きた放射能漏れ事故直後以外はありません。おおむね1mSv/年以下だったと思われます。ほとんどの場所で、放射線量は一度も基準値を上回ったことはないはずです。
原子力施設から出ていた核分裂生成物(放射性物質)は、今言われている常識からすれば、「ごく僅か」であり「微量」でした。しかし、この地図は、統計的に見ると、その「ごく僅か」な放射性物質が、乳癌死亡率を引き上げていることを如実に語っています。参考のために、もう一点、地図をアップしておきます。これは、現在アメリカにある原子力発電所の一覧です。核兵器工場・核廃棄物貯蔵所は含んでいませんが、先の地図と、「奇妙に一致」することはお分かりいただけると思います。

京都大学の小出裕章さんが、何度も繰り返している通り、「低線量でも“安全な被曝”は存在しない」のです。低線量被ばくに関する、アメリカ科学アカデミーの見解も紹介しておきましょう。「低線量放射線でもDNA等に損傷を与え、最終的にはがんを引き起こす原因になりうる」(2005年6月29日/アメリカ科学アカデミー「電離放射線による生物学的影響」調査委員会)。いわゆる、「しきい値なしの直線モデル」です。

これは、それまで一部で言われてきた「しきい値モデル=ある被ばく線量を超えるまで、放射線は人体に害を及ぼさない」という考え方を完全に否定するものでした。調査委員会は、<広島・長崎の被爆者生涯追跡調査では以前から「ある線量以下であれば安全というしきい値は見つからず、発がんのリスクは線量に比例して直線的に増加する>という事実に基づき、他のデータを積み重ねた上で、「しきい値なしの直線モデル」にたどり着いています。

さらに、アーネスト・スターングラス博士(ピッツバーグ医科大学名誉教授)によれば、長期間にわたる低線量の内部被ばくは、実際には、「直線モデル」以上の放射線障害(分かりやすく言えば、発ガン)を起こしていると言います。

海江田経産相は「原発の安全は国が保証する」と胸を張り、玄海町岸本町長は「安全は確認された」と笑顔で応えます。
しかし、まず、発電システムとしての原発の安全性が確認されていないのは言うまでもないことです。福島の事故を横目に見ながら、「安全は国が保証する」と言う海江田経産相の神経は考えられません。
自然災害の話だけでも、この人たちは、九州にある「姶良カルデラ」や「喜界カルデラ」が、すでにいつ大爆発を起こしてもおかしくない時期に入っていることを知っているのでしょうか?千年単位の話ではありますが、原発を考える時、その長い時間を見据えることが必要だと、福島の事故が教えてくれたのではないでしょうか。

そして、原発周辺地域での低線量被ばくの問題。一切、解決していませんし、その糸口すらありません。
「週刊現代」(7/9号)を見ると、
佐賀県:玄海町立値賀中学校正門前=0.22μSv/h
島根県:松江市松江市役所=0.23μSv/h
茨城県:東海町東海第二原発近くの民家の庭=0.30μSv/h
福井県:美浜町美浜原子力PRセンター=0.26μSv/h
…と、原発の近くでは、ことごとく高い空間線量が観測されています。
「自然から受ける放射線量を考えれば大した数値ではない」という反論もありそうですが、実は、自然由来の放射線と、原発由来の放射線には、決定的な違いがあります。
自然放射線は大半が宇宙から飛んできたり、岩石の中にあるウランなどから発しています。私たちは、自然界から多少の放射線は受けていますが、一部、空気中にあるラドン222、食物に含まれるカリウム40、炭素14などを除けば、放射線の発生源である放射性物質に遭遇することはほとんどありません。
しかし、原発由来の放射線は、大半が大気中に浮遊する塵に乗ったり、地表面に落ちた放射性物質(セシウム137など)から発しています。これらの放射性物質は、呼吸や飲食を通して、私たちの体の中に容易に入ってきます。
そして引き起こされる低線量内部被ばく。それが、冒頭の「奇妙な一致」を見せる地図に現れているのです。

5月20日衆議院科学特別委員会における崎山比早子さん(元放射線医学総合研究所主任研究官、医学博士、現高木学校)の発言をもう一度思い出しましょう。
「放射能には安全値はありません。年間1ミリシーベルトの許容も、そうしないと原子力産業が成り立たないからであって、生物学的学問から決められたものではない」

多くの人たちが、20mSv/年という、とんでもない基準をめぐって闘いを繰り広げています。当面の目標は、1mSv/年を国に認めさせることです。それは間違ってはいません。しかし、その1mSv/年にすら、安全の裏付けはないということを私たちは忘れてはいけません。

勇気を持って撤退しようではありませんか!原発から。

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