内部被曝の再検討

呼吸や飲食によって体内に取り込まれた放射性物質が体内で発する放射線によるのが内部被曝です。
このブログでもそうでしたが、普通、内部被曝は放射性物質の種類(核種)ごとに語られます。ただ、放射線の種類によって「怖さ」が違うという事実もあります。いつもとは違う視点から、内部被曝を再検討してみます。

まず放射線には、アルファ線・ベータ線・ガンマ線の3種類があります。放射線として一括りにされていますが、実は物理学的にはまったく別なものです。
アルファ線はヘリウムの原子核。陽子を2個、中性子を2個持っています。
ベータ線の実体は電子の流れです。電子の質量は陽子や中性子の1/1800ですから、アルファ線に比べるとずっと軽いですが、質量はあります。
ガンマ線は、光や電波と同じ電磁波の仲間で、X線よりも波長が短いもの。波長が短ければ短いほどエネルギーが高いので、ガンマ線は強い透過力を持っています。電磁波なので質量はありません。

なぜ、まったく異なるものなのに、放射線として一括りにされるのでしょうか?
放射線は電離作用を持つ電磁波や粒子線と定義されます。電離作用とは、原子や分子の中にある電子をはじき飛ばす力。放射線の人体への影響は、DNA内の電子をはじき飛ばして、DNAの分子結合を壊してしまうことから始まります。遺伝情報を持つ二重らせん構造を破壊、正常な細胞分裂をできなくし、ガンなどを引き起こすのです。

ちなみに、生体にはDNAの破損を自律的に修復する能力がありますが、破損が大きいと追いつかなくなります。

さて、放射線の種類によって電離作用の強さは違うのでしょうか?

アルファ線はガンマ線の20倍の電離作用を及ぼします。アルファ線は透過力が弱いので体内では数十μm(マイクロメートル)しか進むことができません。逆にその事が禍して、至近距離にある細胞のDNAを集中的に傷つけます。

ベータ線は生体内では数cmしか進めません。これまた、至近距離にある細胞のDNAをピンポイント攻撃します。
電離作用の強さはガンマ線と同等とする考え方が主ですが、生体内から外に出ることがないので、生体への影響はガンマ線より強いという意見もあります。

ガンマ線は生体内でもかなりを距離を進みます。レントゲン写真が撮れるX線よりもエネルギーが高いと言えば、直感的にその透過力が分かると思います。ある程度、広い範囲で電離作用を引き起こし、一部は体外にも飛び出してきます。

さて、ここまで考えてみて、基本的な疑問が沸き起こります。体内に取り込まれた放射性物質から出る放射線の内、体の外で検出できるのはガンマ線だけ?
そうなのです。アルファ線とベータ線は悪さをした後、すべて体内で吸収されてしまうので、体の外では検出できません。
従って、アルファ線やベータ線を発する放射性物質を体内に取り込んだかどうかを調べるのは、極めて難しいことです。取り込んだばかりなら、鼻腔内や喉の粘膜を調べることで被曝量を推測できるとされていますが、出てきた数字の何倍が体内に入ったか分からないでしょう。あとは、便や尿から調べるしかありません。しかし、当然にも十分な数のデータがないので、かなり大雑把な推測しかできません。
ガンマ線は、体外に出てくる線量を計ることで、およその体内被曝量を知ることができます。

外部被曝では、あまり考慮する必要のないアルファ線とベータ線によって引き起こされる内部被曝は、そのDNAを破壊する力において、また、放射性物質を体内に取り込んだことが分からないという意味でも、極めて深刻なのです。

では最後に、放射性物質ごとに、放出する放射線の種類などをまとめておきましょう。

●ヨウ素131
放射線の種類=ベータ線・ガンマ線
半減期=8日
内部被曝の特徴=甲状腺に集まって、甲状腺ガンを引き起こす。

●セシウム137
放射線の種類=ベータ線・ガンマ線
半減期=30年
内部被曝の特徴=体内でカリウムと置き換わり、筋組織などに蓄積する。

●ストロンチウム90
放射線の種類=ベータ線
半減期=30年
内部被曝の特徴=体内でカルシウムと置き換わり、骨髄に蓄積。白血病を引き起こす。

●プルトニウム239
放射線の種類=アルファ線
半減期=2万4千年
内部被曝の特徴=肺に蓄積されると肺ガンを引き起こす。

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