核分裂生成物(放射性物質)は、確かに海に流れ込めば希釈されます。しかし、それは植物プランクトンに吸収され濃縮されます。その植物プランクトンを食べた動物プランクトンの体内でさらに濃縮。食物連鎖に従って、貝類や小魚へ。そしてマグロやカツオなどの大きな魚へ。どんどん濃縮が進んで、最後は私たち人間の体に入ってきます。
環境ホルモンが問題視された時に、アメリカの国鳥であるハクトウワシが、農場や町で撒かれた殺虫剤・DDT(環境ホルモンの一つ)のせいで絶滅の危機に瀕していました。ハクトウワシは、農場の作物を突っついたわけではありません。雨で流れ出たごく少量のDDTを含む水が流れ込む先の湖に、たくさんのプランクトンがいて、そのプランクトンを食べた小魚を餌にして育った大きな魚をハクトウワシが獲っていたのです。ハクトウワシの体内では、DDTが深刻な濃度になっていました。この話は食物連鎖による毒物の濃縮の典型例とされています。「風が吹くと桶屋が儲かる」みたいな話ですが、食物連鎖とはそういうもので、生き物とはそういうものなのです。DDTの使用が禁止されると、ハクトウワシはその生息数を盛り返しました。
不要に危機感を煽るような発言は慎むべきだと思いますが、福島第1原発の事故による海洋汚染は、間違いなく進むだろうと考えられます。市場で最初に問題になるのは、おそらく海草と貝類でしょう。半減期の短いヨウ素131は深刻ではありませんが、生体がカリウムと間違って取り込んでしまうセシウム137と、カルシウムと容易に入れ代わるストロンチウム90が心配です(ともに半減期は約30年)。核分裂生成物が食物連鎖の輪に取り込まれるまでには、おそらく数ヶ月から数年あれば十分でしょう。
さらに、数日前に書いていますが、危険きわまりないストロンチウム90に関しては、東電からも国からも、まったくデータが公表されていません。いったいどうなっているのでしょうか。
福島と茨城県北部は、農業においても漁業においても、国内有数の生産地であり、先進的な取り組みをしてきた生産者も多い地域です。取り返しのつかない事態になってしまいそうで、考えれば考えるほど悲しくなります。