『高浜原発再稼働差し止め仮処分』の読み方

4月14日、福井地裁(樋口英明裁判長)が、関西電力高浜原発3、4号機(同県高浜町)の再稼働を認めない仮処分決定を出しました。再稼働差し止めです。仮処分とは、新たな司法手続きによってそれが覆されないかぎり、効力が有効だという、裁判所による重い決定です。

高浜原発再稼働差止め仮処分福井地裁決定要旨全文

●基準地震動とはなにか?
この決定で目立つのは”基準地震動”への言及です。
基準地震動とは、原発の地震に対する耐性を評価するときに用いる数値で、原発やその周辺で想定される最大の地震の揺れ(=地震加速度)のこと。加速度を表す”ガル”という単位を用います。
要するに、その原発が襲われうる最大の揺れ。その原発がある場所では、絶対にこれ以上の揺れはない、というのが基準地震動で、その値を超える耐震性がなければ、原発の稼働は認められません。

高浜原発3、4号機の運転開始時の基準地震動は370ガルでした。それが耐震補強工事なしで550ガルに引き上げられ、新規制基準の実施を機に、さらに700ガルに。特に耐震性を強化したわけでもないのに、いつのまにか当初想定していた地震の倍の揺れにまで耐えられることになっている…
大規模な耐震工事がなされたなら、少しは納得の行く方もいるかも知れませんが、基準地震動という数値だけが、スルスルと引き上げられていく。これは、仮処分決定が指摘するとおり「社会的に許容できることではないし、債務者のいう安全設計思想と相容れないもの」です。

ここでは、補足として、地震加速度について解説を進めます。
地震加速度とは、地震の揺れの強さを示す値で、ガル値とか最大加速度などとも呼ばれます(それぞれの原発で想定される最大の地震加速度が基準地震動)。
ギネスに認定されているこれまで最大の地震加速度は、2008年6月の岩手・宮城内陸地震の時に岩手県一関市で記録された4022ガルです。史上最大とか有史以来最大とは言えませんが、少なくとも人類が地震計を手に入れてから最大の揺れ。それが、この日本列島で記録されていることは重要です。

ちなみに、東日本大震災で記録された最大地震加速度は2933ガル(宮城県栗原市)、新潟県中越地震では2516ガル(新潟県川口町)でした。

その時、原発はどうだったのしょうか?
新潟県中越地震で、全原子炉が緊急停止、火災発生、汚染水が流出した柏崎刈羽原発。3号機で2058ガルという猛烈な揺れを記録しています。ここまでの数字を見ただけで、高浜の700ガルという数字がいかに楽天的なものか、お分かり頂けるでしょう。
推進派は「地質構造が…」「岩盤が…」という理屈を言いますが、日本列島はすべての場所で、1000ガル、2000ガルを越える地震加速度が襲ってきても不思議はない地震の巣。それを認めるのが科学的立場です。固い岩盤の上に建っているはずだった柏崎刈羽原発が2000ガルを越える揺れに襲われたのですから。
東日本大震災では、福島第1原発の立地する大熊町で922ガルが記録されています。しかし、なぜか東京電力が発表した原発敷地内の地震加速度は、2号機が550ガル、3号機が507ガル、5号機が548ガルでした(これらの値ですら、当時の福島第1に適用されていた基準地震動の1.15倍~1.25倍ですが)。

さて、高浜原発に話を戻しましょう。基準地震動が、いつの間にか700ガルに引き上げられたことも大問題なのですが、仮処分決定では、原発推進派の権威である入倉孝次郎京大教授の言葉を引用して、基準地震動の数値自体がかなりいい加減だと指摘しています。
入倉教授曰く「基準地震動は計算で出た一番大きな揺れの値のように思われることがあるが、そうではない」「私は科学的な式を使って計算方法を提案してきたが、平均からずれた地震はいくらでもあり、観測そのものが間違っていることもある」と。
福井地裁は「地震の平均像を基礎として万一の事故に備えなければならない原子力発電所の基準地震動を策定することに合理性は見い出し難いから、基準地震動はその実績のみならず理論面でも信頼性を失っていることになる」と当然の指摘をしています。
実は、”基準地震動=700ガル”には、なんの根拠も無かったということです。

参考資料
■気象庁『災害時地震・津波速報平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震』

参考記事:
■朝日新聞『原発で最大揺れ2058ガル 柏崎刈羽3号機』
■朝日新聞『福島第一の揺れ、耐震設計の想定超える 2・3・5号機』

●多重防護???
関西電力が主張する”多重防護”についても、福井地裁は大きな疑問を投げかけています。
「多重防護とは堅固な第1陣が突破されたとしてもなお第2陣、第3陣が控えているという備えの在り方を指すと解されるのであって、第1陣の備えが貧弱なため、いきなり背水の陣となるような備えの在り方は多重防護の意義からはずれるものと思われる」と。

その通りなのです。「外部電源が落ちてもディーゼルがあるから大丈夫」「ディーゼルが落ちて、全電源喪失になっても、消防車や電源車があるから大丈夫」。はっきり言って、これは下品な笑い話レベル。福島第1で起きたことを見て見ぬふりして、原発再稼働を押し通す。そんなことは許されません。

なお、本来、原子力発電所における多重防護とは、「燃料ペレット→燃料棒被覆管→圧力容器→格納容器→原子炉建屋」という”五重の壁”のことを言います。それがいとも簡単に崩れ去ったのを私たちは目撃しています。
自分たちが錦の御旗にしてきた”五重の壁”という多重防護が打ち破れたときに、また、取って付けた多重防護で安全神話をでっち上げようとしている。それが、今の電力会社や日本政府の姿です。見逃してはいけません。

●政府の反応、原子力規制委員会の反応
管官房長官は14日午後の記者会見で、次のように述べています。「原子力規制委員会の判断を尊重して再稼働を進める方針に変わりはない。粛々と進める」。
沖縄県の翁長知事から「上から目線だ」と批判された”粛々”という言葉をあえて使って、仮処分という裁判所の重い判断を無視する構えです。行政府の番頭が司法の判断を無視!?”三権分立”はどこに行ってしまったのでしょうか?

新基準について「合理性を欠く」「緩やかすぎる」などと指摘された原子力規制委員会の田中委員長も感情的になっています。「私たちの取り組みが十分に理解されていない点がある。事実誤認がいっぱいある」と。
そして、「世界でもっとも厳しいレベルだと国際的にも認知されている」という大ウソをつきます。

新基準の問題点をとりあえず列挙すると、「溶融した核燃料を受けとめるコアキャッチャーがない」「航空機衝突対策二重壁が義務付けられてない」「フィルター付きベントの設置は加圧水型では5年間の猶予」など。
コアキャッチャーはヨーロッパの新型炉で義務付けられています。フィルター付きベントはもはや常識(ちなみに、スイスは多額の予算を使って全原発にフィルター付きベントを設置しましたが、安全性が担保されないとして、最終的にすべての廃炉を決定)。

管官房長官は「原子力規制委員会が専門的見地から十分に時間をかけて世界で最も厳しい新規制基準に適合すると判断したもので、尊重して再稼働を進めていく方針に変わりはない」と述べ、田中委員長のウソを追認しました。
安倍首相の「アンダーコントロール」発言が有名になってしまいましたが、いつからこの国の行政府のトップたちは、堂々とウソ言ってよいことに…

今回の仮処分決定は、高浜原発3、4号機に対して出された決定ですが、その中身を読めば、日本列島にあるすべての原発の再稼働が認められないという立場に立っていることが分かります。
きわめてまっとうなものだと思います。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください