放射性物質はいかに飛散し人体に入り込むのか(2)

2回目は”ホット・パーティクル”と”がれきと粉じん”という視点から見ていきます。

●ホット・パーティクル:参考記事
この記事を書き始めようとしていた、まさにその時、”ホット・パーティクル”がらみのニュースが入ってきました。以下にリンクで紹介しますが、記事が消されてしまう可能性もあるので、テキストでも貼り付けておきます。

■時事通信『微粒子からウラン検出=原発事故直後、茨城で採取-理科大など』
<東京理科大などは8日、東京電力福島第1原発事故直後の2011年3月14日に、約150キロ離れた茨城県つくば市で採取された放射性セシウムを含む微粒子から、ウランを検出したと発表した。微粒子には高温で溶けた後、急速に冷やされた形跡があり、研究チームは事故直後の原子炉内の様子を知る手掛かりになるとしている。>

■NHK『原子炉破損で燃料のウラン飛散か』
<東京電力福島第一原子力発電所の事故が起きた直後に茨城県内で採取された大気中のチリから、ウランのほか原子炉内の構造物の素材が検出され、分析に当たった研究グループは早い段階から大規模な原子炉の破損が進んでいたことを裏付ける結果だとして、さらに分析を進めることにしています。
東京理科大学の中井泉教授らの研究グループは、福島第一原発の事故直後の3月14日の夜から翌朝にかけて原発から130キロ離れた茨城県つくば市で採取した大気中のチリを兵庫県にある大型の放射光施設「スプリング8」で分析しました。
その結果、放射性セシウムのほか、ウランや燃料棒の素材のジルコニウム、圧力容器の素材の鉄など、核燃料や原子炉内の構造物と一致する物質が検出されたということです。
これらのチリは直径2マイクロメートルほどのボール状をしていて、高温で溶けたあと外部に放出されるなどして急に冷えた場合の特徴を示しているということです。
福島第一原発では、事故発生からチリが採取された14日の夜までの間に核燃料のメルトダウンが進み、1号機と3号機が相次いで水素爆発していて、研究グループでは早い段階から大規模な原子炉の破損が進んでいたことを裏付ける結果だとして、今後もさらにチリの分析を進めることにしています。>

●ホット・パーティクル:生成のメカニズム
上記の報道は、福島第1の事故直後、3月14日につくば市で採取された直径2マイクロメートルという、きわめて小さなボール状微粒子に関するものです。
別な報道では「ガラス状の微粒子」ともされています。
ボールの中には、放射性セシウム、ウラン、ジルコニウム、鉄などが含まれていました。しかし、これはいわゆる合金でありません。主に酸化物が焼結したセラミックスと見られています。事故発生直後から危険視されていたホット・パーティクルです。

核燃料から放出される放射性セシウムは、水酸化セシウムやヨウ化セシウムという化合物の形になっています。他に、酸化セシウムというのもあります。
核燃料はウラン燃料とも呼ばれますが、実際には二酸化ウランです。メルトダウンして溶け出し、さらに高熱になって気化したとしても、二酸化ウランから変わることはありません。
ウラン燃料を原子炉で使い始めると、燃料棒内にはプルトニウム239が生成されます。また、3号機はMOX燃料を使っていましたから、もともとプルトニウム239が含まれています。これらは二酸化プルトニウムです。

前の記事でも書いたとおり、核燃料の本体は二酸化ウランのセラミックスです(MOX燃料の場合は、二酸化ウラン + 二酸化プルトニウムのセラミクス)。これがメルトダウンすると、原子炉内にある他の物質(ジルコニウムや鉄)も、飲み込まれるように溶け込んでいきます。

以下に、燃料棒や原子炉にある主な物質や元素の沸点と融点を整理しておきます。

こうして見ると、メルトダウンを起こす温度(二酸化ウランの融点)=2865℃というのが、いかに高い温度なのかよく分かります。セシウムの化合物はもちろん、鉄ですら気化する温度なのです。
原子炉内の空間は、気化した放射性物質と、溶けた核燃料から微粒子として舞い上がった放射性物質が充満した状態。それが冷やされたときに一緒になって、セラミクスの微粒子に。上昇気流に乗って大気中へ大量に漏れ出していきました。
見方を変えると、「二酸化ウランのセラミクスが高温で溶けて、他の物質も巻き込んで、再度、セラミクスに焼結し環境中に漏出した」とも言えます。

ここで、セラミクスと焼結について、簡単に解説しておきましょう。
私たちにとって、もっとも身近なセラミクスは磁器。その原料は、二酸化ケイ素(石英)、酸化アルミニウムなどです。これらを主成分とする陶石を粉末にし、水で練り、ロクロなどで成型します。その後、”焼結”。文字どおり焼き固めるのですが、窯の中の温度は1300℃前後。酸化物などの粉末の集合体を融点よりも少し低い温度で加熱すると、粉末が固まって焼結体(セラミクス)になるのです。

現在は、ほとんどの磁器の窯元が電気窯やガス釜を使っているので、温度が上がりすぎてしまうことはありませんが、かつては薪を使った登り窯でした。
窯の中の温度が陶土の融点を超えてしまうと、せっかく成型した器が溶けて変形してしまいます。言ってみれば、磁器のメルトダウン。昔は、窯の隅などで、しばしば”メルトダウン”が起きていました。しかし、いったん溶けても、冷えたときにはセラミクスになります(売り物にはなりませんが)。

この<セラミクス→メルトダウン→セラミクス>という事態が、原子炉内で起きたのです。そこにあったのはウランやプルトニウム、放射性セシウムや放射性ストロンチウムでした。そして、すべてが大きな塊にまとまったのではなく、一部は、微粒子=ホット・パーティクルとして舞い上がり、はるかかなたにまで、放射性物質を届ける役割を果たしました。

気象庁気象研究所が撮影に成功したホット・パーティクル

■Natureに掲載された気象庁気象研究所の論文
水に溶けない放射性物質の微粒子=ホット・パーティクルについて言及しています。

●ホット・パーティクル:その危険性
上記の生成過程を見ると、ぞれぞれのホット・パーティクルが、異なる組成になることは明白です。あるものはセシウム137を多く含み、あるものはストロンチウム90が多い。また、あるものはプルトニウム239やウラン235を、というように。複数の放射性物質を含んでいて、その比率はまちまちです。
もちろん、ベータ線やアルファ線を出す核種がたくさん含まれます。
アルファ線は強力な放射線ですが、遠くまでは届きません。逆に言うと、体内のある場所に固定されてしまうと、延々と同じ細胞(群)にダメージを与え続けます。

ホット・パーティクルは、セラミクスなので水に溶けません。ですから、今のところ、消化管から体内に吸収されるメカニズムはないとされています(絶対にないとは言いきれませんが)。
怖いのは、呼吸による摂取です。0.01マイクロメートルから10マイクロメートルという微粒子。簡単に肺の奥、肺胞までたどり着いてしまいます。
前の記事で書いた放射性ブルーム由来のヨウ素131やセシウム137と異なるのは、セラミクスなので、血液に溶けて体内を循環するのではないということです。肺胞にへばり付いて、放射線を発し続けます。そして、死ぬまで外に出てくることはありません。
特に、プルトニウム239を含むホット・パーティクルが肺に入った場合が危険視されています。
ちなみに、同じ数のプルトニウム239原子(半減期:2万4千年)とウラン235原子(半減期:7億年)があったとすると、同じ期間では、プルトニウム239が2万9千倍のアルファ線を出します。
1個のホット・パーティクルが、何ベクレルに相当するかは、その大きさや組成によって異なるので、何とも言えませんが、微粒子とは言え、そこに数十億個、数百億個の放射性の原子があるのは事実です。

一方、ホット・パーティクルが、今ここにあっても、空間線量が跳ね上がるとか、そういうことはありません。空間全体に対する密度は小さなものだからです。しかし、私たちの肺は、掃除機の集塵パックのようなものです。少ししか存在しなくても、いつの間にかため込んでしまうのです。

旧ソ連の核実験場があったセミパラチンスクでは、住民に肺がんが多発しています。亡くなった方たちの肺を調べると、がん組織の近くの細胞ほど、プルトニウムを含むホット・パーティクルが見つかると言います。
これは、核実験で飛散したホット・パーティクルを吸い込んだことが肺がんにつながることを示唆しています。

●がれきと粉じん
福島第1の事故現場から放射性物質を含む粉じんが舞い上がり問題となっています。まず、飛散対策をせずにがれき処理を進めてきた東京電力に怒り心頭です。
一方、この粉じんには、放射性プルームで飛散したものとは違う危険性があることも認識しておく必要があります。

ストロンチム90への警戒です。
カルシウムと化学的性質が似ているので、体内に入ると骨組織に集まり白血病を引き起こすストロンチム90。運転中の原子炉ではセシウム137とほぼ同量が生成されますが、チェルノブイリでも福島第1でも、セシウム137に比べると、遠くまで飛散しにくいという結果が出ています。
逆に言うと、事故現場の近くでは、相対的にストロンチム90の存在確率が高くなります。
原子炉直近にあるがれきを手荒に扱って、飛ばなくてよいストロンチム90を遠くまで飛ばしている。これが現状であり、”がれきと粉じん”の問題を正しく見据えるために必要な視点です。

原子炉至近のがれきに、どのくらいのストロンチウム90が付着しているのか… 飛散した粉じんに含まれていたストロンチム90はどの程度なのか…
徹底した調査を行う必要があります。

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