『崩れ始めた世界の原子力ムラ』と日本

原発の開発・建設で長年に渡って先頭を走ってきたゼネラル・エレクトリック社(GE)のCEO、ジェフ・イメルト氏が『世界の原子力ムラ』を震撼される衝撃の発言です。

米GE「原発の正当化、難しい」CEO発言、英紙報道【朝日新聞】

米GEのCEO、原発「正当化難しい」英紙に語る 【日本経済新聞】

発言の概要は、
●原子力発電が他のエネルギーと比較して相対的にコスト高になっている。
●原子力発電を経済的に正当化するのが非常に難しくなっている。
●天然ガスが非常に安くなり、いずれかの時点で経済原則が効いてくる。
●世界の多くの国が(天然)ガスと、風力か太陽光の組み合わせに向かっている。
です。

背景には、天然ガスの産出量増加や、自然エネルギー分野で進む技術革新と並んで、福島第1の事故で補償や廃炉にかかる費用が膨大になることがあります。また、3.11以降、各国で原発に対する審査や規制が厳しくなっており、これもコストを引き上げると見ているのです。世界の原子力ムラの中心人物が、原子力発電のコストが実は安くないことを明言したのです。

一方、日本では、東京電力への1兆円の公的資金投入をめぐって、枝野経産相が注目の発言です。

東電に1兆円公的資金投入 経産相「国有化は相当長期」【朝日新聞】

国有化の期間が「相当長期にわたる」と述べたのは、福島第1の廃炉や賠償の費用が巨額となり、その概算の見積りすら不可能なことが理由です。

原子力なのか自然エネルギーなのかを巡って、コスト論争が盛んに行われていますが、実は、事故処理や補償まで含めたら、原子力発電のコストは実質的には青天井。幾らになるかまったく分からない状態なのです。

そんな中で行われた東電への1兆円公的資金投入。赤ちゃんから高齢者まで含めた頭割りで一人1万円。4人家族で4万円。どれほど大きな金額かお分かりいただけるでしょう。これは私たちが背負ったあらたな原子力発電のコストです。それも、今までに原発で発電した分に対するコストだということを忘れてはいけません。この1兆円は、東電が倒産しないように支えるためだけの資金であって、何も生みません。

話をGEに戻しましょう。
福島第1の1号機から5号機はGEのMark1と呼ばれるタイプの原子炉です。このうちの3基がメルトダウン事故を起こしました。
今の段階では訴訟はなっていませんが、Mark1には元々欠陥があると指摘されており、今後、GEの責任が公の場で追求される可能性も高まっています。

GE Mark1 設計に特有の脆弱さ【本ブログ】

さて、GEは日立と組んで原発の推進を進めてきました。
提携開始は2007年。比較的最近のことです。見方によっては、GEはリスクの一部を日立に肩代わりさせようとしているとも読めます。

ここで世界の世界の原子炉メーカーを見てみましょう。ロシアのロスアトムを含めて4グループしかありません。

このうち、ウェスティングハウスは2006年に東芝の子会社になっています。
ウェスティングハウスがアメリカの企業からイギリスのBNFL(英国核燃料会社)に売却されたのは1998年。それが東芝に転売されたのです。

現時点で世界最大の原子力産業と言われるフランスのアレバ社は、三菱重工と提携・協力関係にあり、各国で原子炉の売り込みをしています。六ヶ所村再処理施設にも大きく関わっています。2社の提携は2008年以降に強化されています。

こうして見ると、ここ数年の間に世界の原子力産業の最先端に日本企業が躍り出た感があります。しかしそれは、同時に原子力事故に対する巨大なリスクを背負い込んだとも言えるのです。

GEについては、原子力関連の売り上げは全社の1%しかありません。仮に世界中の原子炉が、今すぐ廃炉になっても蚊に刺された程度なのです。原子力部門をすべて日立に売却してしまっても同じことです。
前述の通りウェスティングハウスは、すでに東芝の子会社です。アメリカ系2社に代わって、世界の原子力産業の中心を担おうとしているのが東芝と日立。
逆に言えば、アメリカやイギリスの企業は、過酷事故の際に責任を追及されるリスクの高い原子炉の建設や保守・管理から体よく逃げ出そうとしているのです。この見方は、当方自身、「うがった見方」とことわった上で、これまで何度か書いてみましたが、本記事冒頭のGEのジェフ・イメルトCEOの発言を読むと、あながち「うがった見方」ではなく、ほぼ当たっているのではないかという確信を得ています。

原発推進の旗を振ってきたアメリカとイギリスが逃げ出す。このままでは、取り残されるのは日本です。アメリカのオバマ政権は、原発の新規建設に手を付けていますが、その原子炉のメーカーはウェスティグハウス(=東芝)なのです。

ヒロシマ、ナガサキで悲惨な被害を被り、福島第1で3つの原子炉のメルトダウンという、人類史上かつてない過酷事故を引き起こした日本。今すぐにでも、世界から原発と核兵器をなくすための最先頭に立たなくてはいけません。
『世界の原子力ムラ』が崩れ始めている時に、私たちがもたついている理由はどこにもありません。

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