「最悪シナリオ」をどう読むか

毎日新聞のスクープです。
『福島第1原発:「最悪シナリオ」原子力委員長が3月に作成』

3.11から2週間後の3月25日、近藤駿介内閣府原子力委員長が「最悪シナリオ」を作成し、菅直人前首相に提出していました。この「最悪シナリオ」は、3月25日時点では過去形ではなく、十分に可能性のある想定でした。

その内容を簡単にまとめると…
●1~3号炉のいずれかでさらに水素爆発が起き原発内の放射線量が上昇。
●余震が続いて冷却作業が長期間停止。
●4号炉核燃料プールの核燃料が全て溶融。
という条件が重なれば、
■原発から半径170km圏内で、土壌中の放射性セシウムが1平方メートルあたり148万ベクレル以上というチェルノブイリ事故の強制移住基準に達する。
■東京都のほぼ全域や横浜市まで含めた同250kmの範囲が、避難が必要な程度に汚染される。
…というものです。

170km圏内には、福島・宮城の全域と山形・栃木・茨城のほとんどが含まれます。250km圏には、東京・埼玉・群馬・新潟のほとんどが入り、北は岩手・秋田の半分にまで及びます。東北と関東のほとんどが強制移住または避難が必要な地域に… これは、まさに戦慄の内容です。

しかし、考えてみれば当たり前で、チェルノブイリで事故を起こしたのは4号炉1基。その出力は100万キロワットでした。
福島第1は、炉心溶融した1~3号炉だけで計203万キロワット。さらに、定期点検で止まっていた4号炉の燃料プールには、原子炉2基分にあたる1535本の燃料棒があります。概算すると、福島ではチェルノブイリの4倍量の核燃料が制御不能に陥ったことになります。
チェルノブイリ以上の事故になる可能性は十分にあったし、「最悪シナリオ」の存在は、それを原子力委員会と政府が認識していた証でしょう。

福島第1事故の現状はひどいものです。
政府も東電も人の命を何とも思っていません。移住はさせない、除染は効果が???内部被ばくはまとも評価せず… しかしながら、事故そのものの規模は、「最悪シナリオ」にまでは及んでいないのも事実です。

日本人の英知が、原発事故を「最悪シナリオ」にならないように抑え込んだ?

いいえ、そんな甘い話ではありません。いくつかの偶然が重なって、「最悪シナリオ」通りには進まなかっただけなのです。
その偶然とは、「余震があまりひどくなかった」「溶融した燃料が固まったのが最悪の場所ではなかった」といったもの。語弊を恐れずに言うなら、「幸いにも」なのです。
もちろん、ベントや、注水による冷却、4号炉の燃料プールの耐震補強工事が間に合ったことなども影響していますが、全体としては、「運良く最悪シナリオが回避されている」だけなのです。

炉心溶融の進行具合が、少しでも変わっていたら、さらなる水素爆発は容易に起きました。その水素爆発が、4号炉の燃料プールを破壊し、1535本の燃料棒が溶融することは、十分に考えられたのです。

原発事故の前では、人間の科学技術や英知は、ほとんど役に立ちません。偶然の結果、少しでも悪くならないように願うしかないのです。

「幸いにも」なんて言うと、福島の皆さんには怒られてしまいそうですが、いくつかの良い方の偶然が重なって、現状なのです。それでさえ、何万人もの人たちが、故郷を捨てざる得なくなっています。内部被ばくにおびえながら暮らし続ける人は、いったい何十万人、いや何百万人・何千万人になるのでしょうか。

今現在、日本国内では7基の原子炉が稼働しています。
原発推進の中枢の一つである原子力委員会が提出した「最悪シナリオ」を読んでも、まだ、原発を動かし続けるのでしょうか… 普通の神経をしていたら、誰だって「そんな度胸はない」と言うはずです。

そして、この記事を書いている2011年12月24日現在、「最悪シナリオ」は過去形になっているのでしょうか…
答えは「いいえ」です。1~3号炉で溶けた核燃料は、どこでどういう形で冷えているのか、いや、本当に冷えているのかさえ不明です。
百歩譲って、冷えているとしても、何かの拍子で核燃料の塊が集まった時には再臨界が起き、あらたに大量の放射性物質が生成・放出されます。再臨界から再溶融もある得るし、それは水素爆発や水蒸気爆発につながります。一方、4号炉の燃料プールの補強は成功したと言われていますが、どの程度の衝撃や地震に耐えるのか、明確にはなっていません。
スクープされた「最悪シナリオ」。それは、いまだに現在形で語られるべきものです。

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