移住と除染

福島第1原発が立地する大熊町。町全体が20km圏内の警戒区域に入り、町民全員の避難が続いています。
11月20日に町長選が行われ、「しっかりと町の除染を行い、住民が生活できる環境を作ることが最優先の課題」とする現職候補が、「いわき市などに町ごと移転」を公約に掲げた対立候補を破りました。
故郷を離れたくないという住民の気持ちは、痛いほど分かりますが、福島第1至近のエリアで、本当に除染によって生活できる環境が取り戻せるのか、大きな疑問があります。
一方では、漏出した放射性物質を少しでも環境中から取り除く除染は、絶対に必要なものです(本来は、東電がすべて行うべき)。空間線量を下げるだけでなく、内部被ばくを少しでも低減させるためにも、除染は必要です。

ここでは、ともすれば対立する考え方とされる「移住」と「除染」について、いくつかの視点から見直してみます。

●上乗せ分が年間1ミリシーベルトを越える地域では移住権を認めるべき。
現在、福島第1由来の外部被ばくが、年間20ミリシーベルト以下の場所では、住民は、住み続けるか、自費での避難・疎開・移住を選択することしかできません。
当方の計算では、年間20ミリシーベルトは、空間線量では毎時4.0マイクロシーベルトに相当します。年間被ばく線量は、3.11以前の自然放射線による外部被ばく線量の約48倍に達します。この環境に住み続けてよいわけはありません。
少なくとも、「チェルノブイリの移住権の基準=年間1ミリシーベルト(上乗せ分)」で、住民に無条件で移住権を認めるべきでしょう。「上乗せ分=年間1ミリシーベルト」は、空間線量で毎時0.34マイクロシーベルト(自然放射線込みの数値)になります。それでも、3.11以前の7倍の空間線量なのです。

ただ、移住権エリアであっても、除染は進めるべきです。それは、当面暮らし続けるための除染というよりは、福島第1から放出された放射性物質を回収するための努力と考えるべきでしょう。

●除染は「放射性物質を環境から隔離する」が原則
「放射性物質による環境汚染と除染のイメージ」を図にまとめてみました。

除染と言われて、真っ先に思い浮かぶは、汚染土壌をビニール袋に詰めて山積みにしていく風景か、高圧洗浄機で道路や屋根を洗い流している風景です。
このうち、汚染土壌の方は、各自治体とも保管先に腐心していますが、基本的には、「仮置き場→中間処理施設→最終処分場」という流れで、環境から隔離することができます。
洗浄水はどうでしょうか?一部の都市部を除けば、ほとんどが河川や海に流れ込んでいきます。これでは、放射性物質を環境から取り除いたことにはなりません。ピンポイントの除染では、屋根の洗浄は欠かせませんが、原則は「放射性物質を環境から隔離する」ことだと理解しておかないと、放射性物質の拡散を招く恐れがあります。下水施設のない地域では、河川に流れ込んだ放射性物質を回収する方法を考える必要があります。

一方、ゴミ処理所の焼却灰や下水処理場の汚泥に、高濃度の放射性物質が集まることが問題視されていますが、これは、不幸中の幸いと考えるべきでしょう。灰や汚泥に集まらなかったら、いつまでも、環境中にあるのですから。中間処理施設を早急に建設し、汚染された灰や汚泥を環境から完全に切り離すことが先決です。

●森林や農地の除染は本当にできるのか?
仮に、住宅地の除染がある程度できたとしても、森林の除染は容易ではありません。
国は、住民に「高濃度に汚染された森林と面と向かって暮らせ!」と言うのでしょうか?森林から流れ出る水はどうするのでしょうか?森林と人の生活圏との間を行ったり来たりする野生動物をどうするのでしょうか?解決の術は見当たりません。
この間、放射性セシウムを積極的に吸着する、いくつかの物質が提案されていますが、それらは例外なく、植物にとって欠くことの出来ない栄養素であるカリウムも吸着してしまいます。生態系の中から、放射性セシウムだけを抜き取ることは、ほぼ不可能といってよいのです。

農地は森林よりは除染できる可能性がありますが、それでも困難が付きまといます。農地の汚染は、作元を通して内部被ばくに直接つながります。きわめて深刻な問題です。
農地から放射性セシウムを化学的に除去しようとすると、必ず栄養分のカリウムも失われてしまうのは、森林の場合と一緒。今のところ、表土と、ある程度深いところの土を入れ替えてしまうのが有効とされていますが、大変な労力を伴う上に、土質が変わってしまいます。
チェルノブイリでは、最初、農地の土を丸ごと入れ替えることを考えましたが、あまりに広すぎて断念。今は、カリウムを撒いて、作物が吸収する射性セシウムの濃度を相対的に下げる方法が中心になっているようです。
何十年もかけて作ってきた豊かな土を放射性物質によって汚されてしまった農家の悔しさを思うと、涙が出てきます。

●福島県以外のホットスポットに関して
首都圏でも、千葉県柏市や埼玉県三郷市など、放射性物質のホットスポットが見つかっています。
除染が難しい森林が少ない地域なので、やる気になれば、徹底的に除染を進めることができると思います。汚染土壌の除去、屋根やアスファルト路面の洗浄などです。場合によっては、街路樹や植栽を撤去・植え替えする必要もあるかも知れません。
一方で、群馬県などには、山間部にもホットスポットがあります。高濃度に汚染された森林をどうするのか… 原発至近エリアと同じ問題があります。
悲しいかな、数十年間、立ち入り禁止にすべき森があります。

●自衛隊を全力動員せよ!
東大アイソトープ総合センター長の児玉龍彦教授が、国の内部被ばくや除染に対する対応を鋭く批判したのは、7月30日のことでした。
この日の児玉発言の中に、「ただちに現地に除染研究センターを作って、実際に何十兆円という国費をかかるのを、今のままだと利権がらみの公共事業になりかねない危惧を私はすごくもっております」というものがあります。除染が利権がらみのビジネスになることを警戒した発言です。
児玉教授は、土壌汚染に関する様々な技術を持つ民間企業の力を結集させるべきと言っています。それ自体は正しいと思うのですが、ハイテク技術を総動員したとしても、除染の現場は人海戦術になることは目に見えています。
なぜ、ここに自衛隊を動員しないのか?給料は税金で払っているのですから、支出は大きく抑えられます。
いずれにしても、自衛隊をフルに活用すれば、除染の利権化を防ぐことができ、費用全体を大きく抑えることができるはずです。

語弊を恐れずに言うなら、私たちは、東京電力から「汚い爆弾」による攻撃を受けた状態にあります。
核兵器を製造する能力を持たない国や組織が、放射性物質を手に入れた場合、それを敵国に撒き散らすだけで、大きな被害を与えられます。これを「汚い爆弾」と呼ぶのです。
福島第1という「汚い爆弾」は、セシウム137だけでも、広島原爆168個分を撒き散らしています。
戦争被害にも匹敵する状況。自衛隊の全力動員は、間違っていないはずです。日本には、陸海空合わせてで約25万人の自衛隊員がいます。

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