放射線とは何か… あえて今、問い直す(2)

さて、放射線の種類によって、人体への影響がどう違うのか、それを再確認していましょう。

まず、核分裂生成物からの放射線です。前の記事で、ベータ線とガンマ線を出すものが多いと書きました。しかし、ベータ線は大気中では数十センチから精々数メートルしか飛びません。従って、人体が核分裂生成物からベータ線を受けるとしたら、すぐ近くにある核分裂生成物からだけです。さらに、人体に入ってからは、1センチほどしか進めませんので、外部被ばくしたベータ線が内蔵に達することは、まずありません(皮膚ガンを引き起こす可能性はありますが)。
しかし、同じ核分裂生成物から発せられたガンマ線はどうでしょうか… まず、遠くからでも届きます。そして、人体全体に、ほぼ均等な外部被ばくを引き起こします。ガンマ線は透過力が強いので、一部は、体を突き抜けて透過してしまうほどです。ただ、「体を突き抜けて」と書くと恐ろしげですが、まっすぐに突き抜けた場合は、何の害もありません。ガラスを透過する光が、ガラスを壊さないのと同じ理屈です。


アルファ線に関しても、外部被ばくは大きな問題にはなりません。アルファ線の透過力はベータ線の1万分の1程度なので、皮膚に直接乗ったりしない限り、外部被ばくはありえないのです。ただ、アルファ線を出す超ウラン元素は、微量のガンマ線も出しています。大量に超ウラン元素が存在する場合は、それが発するガンマ線への警戒は必要になります。ここまでで、今回の福島第1の事故に関する限り、外部被ばくは、基本的にガンマ線を警戒すればよいことが分かっていただけたかと思います。さて、問題は内部被ばくです。まず、下の図をご覧ください。放射線の種類による異なる内部被ばくが及ぶ範囲を図示してあります。


見て頂ければ、アルファ線とベータ線による内部被ばくが、極めて危険である事は明白だと思います。アルファ線とベータ線は、遠くまで飛べない分、近くの細胞やDNAに確実に損傷を与えます。
すべてがガン化の引き金になるわけではありませんが、細胞になんらかの影響を与えるという意味では100%の確率です。片やガンマ線は、内部被ばくであっても、一部は体の外にそのまま飛び出していきますので、すべてが悪さをするわけではありません(ガンマ線を過小評価するわけではありませんが)。
また、ベータ線とガンマ線を出す核種であれば、外部被ばくの約2倍の被ばく量があることも、お分かりいただけると思います。同じ核種による外部被ばくではガンマ線の影響しか受けませんが、内部被ばくでは、ベータ線とガンマ線の両方を被ばくするのです。ベータ線を発する代表的な核分裂生成物は、甲状腺に集積するヨウ素131であり、骨に集積するストロンチウム90です。政府の発表は、いつも○○シーベルトですが、これは全身が均等に被ばくした場合に換算した数字です。それが甲状腺だけに集積した場合、あるいは骨だけに集積した場合、その器官・臓器における被ばく量は、実質的には何倍、何十倍にもなります。国だけでなく、多くの医学関係者が、このことに目をつぶって、「危険な値ではない」と言い切る神経が理解できません。一方、アルファ線を放射するのは、プルトニウム239に代表される超ウラン元素です。これらの多くは水に溶けません。それは血液にも溶けないことを意味します。従って、呼吸で肺に入った場合、肺細胞のある部分に長い間留まり続け、数マイクロメートルという狭い範囲にアルファ線を浴びせ続けます。もはや、○○シーベルトはなんの意味も持ちません。超ウラン元素を含む微粒子を数個吸い込んだだけで、肺ガンを発症する可能性が高くなるとされています。

放射線の人体への影響… それを突き詰めたときに明らかになってくるのは、外部被ばくと内部被ばくのメカニズムの違いです。この違いを無視して、すべてを○○シーベルトで語りきろうとする国や一部の研究者、研究機関の姿勢には悪意があると言ってもよいくらいです。ある臓器に、ある核種が、どれだけの量、集積した時に何が起きるのか… それを隠し続ける者たち。大きな憤りを覚えます。
内部被ばくは、まだまだ研究され尽くしているとは言いがたく、一部には、本当に分かっていないこともあります。しかし、「分かっていないから安全」ではないでしょう。「分かっていないことは、最大限の安全を考慮して」でしょう。そうしなければ、放射線から、子供たちの命と健康を、そして私たちの命と健康を守ることはできません。

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