再処理施設って何?

使用済み核燃料の再処理施設を巡る興味深い報道があったので、取り上げておきます。
「福島の核燃料、仏が引き取り打診」 菅前首相に聞くフランスのフィヨン首相から菅前首相に、「福島第1にある使用済み燃料(プールで保管中の3108体)を引き取ってもよい」という打診があったというのです。大胆なトップセールスが行われたのは5月。フランス・ドービルで開催されたサミットでのことでした。
この話、直接的には、福島第1の収束に関わると見えますが、実は日本政府に対して原子力政策の根幹に関わる問題を突きつけ、私たちには「原子力」に立ち向かう基本姿勢を問いただしています。

本ブログで既報通り、福島第1だけでなく、日本の原発は、どこも使用済み核燃料で満杯です。フランス、イギリスでの再処理は契約が切れ、国内での再処理も目途が立っていません。【使用済み核燃料はどこへ?
そこへ原発大国フランスから強烈な売り込み。欲しいのは使用済み核燃料に含まれるプルトニウムと、原子力技術の世界へのアピールでしょう。一方、日本の経産省内では、核燃料サイクル計画が根底から崩れるとして、反対論が強いそうです(プルトニウムがなければ核燃料サイクルは想定すらできません)。まずは、この期に及んで、核燃料サイクルなんていう馬鹿げたプランに固執し続けている経産省に呆れます。ただ、この一件、正しく理解するためには、少し勉強が必要です。反対派の一部には、「原発のゴミ=使用済み核燃料をフランスが受け入れてくれるって言ってるんだから、あげちゃえばいいじゃん」という意見もありそうですが、事はそう簡単ではありません。

「再処理」なんて言われると、何となく聞こえがよいですが、その実態は「プルトニウム抽出工場」です。
世界初の再処理施設が稼働したのは1944年。アメリカのハンフォード核施設でした。人類が核の恐怖と同居を始めたその時代、すでに再処理施設は登場していたのです。
目的は長崎に投下する原爆の製造。広島原爆の核分裂物質がウラン235で、長崎原爆がプルトニウム239だったことは多くの方がご存じの通りです。

で、何からプルトニウムを抽出するのか… それが今で言う使用済み核燃料です。1944年当時、発電用原子炉はありませんから、使われたのは、とにかくプルトニウムを作るための原子炉=プルトニウム生産炉でした。とは言え、基本原理は今の発電用原子炉となんら変わりません。原料は、ウラン238が主体で数%のウラン235を含む低濃縮ウラン。中性子をぶつけ、ウラン235の連鎖的核分裂反応を起こします。その時に、余った中性子がウラン238に吸収され、プルトニウム239になるのです。

ただ、それだけでは原爆に使える純度の高いプルトニウム239を得ることはできません。
そこで、「低濃縮のプルトニウム(=使用済み核燃料)」を再処理施設に持ち込み、プルトニウムだけを抽出したのです。再処理工場は核兵器と切っても切れない関係、いや、核兵器のための技術なのです。

さて、話を先に進めましょう。再処理工場では、どうやってプルトニウムを抽出するのでしょうか…
使用済み核燃料には、燃え残りのウラン235、ウラン238、核分裂生成物(セシウム137やストロンチウム90など)、プルトニウム以外の超ウラン元素(アメリシウムやキュリウム)、そして、プルトニウム(大半がプルトニウム239)が含まれています。
これを濃硝酸に溶かすなどして、プルトニウムとウランを取り出すのです。残りはガラスで固めてガラス固化体というものにします(崩壊を続ける核分裂生成物や超ウラン元素を濃縮したようなものですから、強烈な放射線を発し、とても人間が近づける代物ではありません)。

しかし、使用済み核燃料は、すべてプルトニウムとウランとガラス固化体に分けられるのではありません。どうしても、かなりの量の高レベル放射性廃液が出てしまうのです。これが、「再処理工場は原発1基分の一万倍の放射性物質を出す」といわれる所以です。フランスのラ・アーグ再処理施設でもイギリスのセラフィールド再処理施設でも、この高レベル放射性廃液を海に流しています。当然、六ヶ所村でも、そういう計画になっています。

では、私たちの立場は…
使用済み核燃料をフランスに持って行ってもらうのは一つの選択肢ですが、それは間違いなく大西洋の海洋汚染を進めます。
一方、日本で再処理?意味がありません。プルトニウム抽出は、核兵器を作るか、危険性ばかりで実現の可能性すらない高速増殖炉への悪夢を増大させるだけです(ちなみに、現在、外国の使用済み核燃料まで含めて再処理を行っている国はフランスとイギリスしかありません。イギリスでは、核燃料サイクルが国策になっていませんから、純粋に外貨稼ぎのビジネスとして再処理をしています。アメリカですら、プルトニウムの拡散を防ぐという理由から、使用済み核燃料の再処理を行っていません)。

さて、今、ここ日本に大量の使用済み核燃料が存在するということ自体が問題なのですが、これは、いかに原発反対派と言っても逃げて通れない現実問題。最悪の中の最善の選択は、今すぐ、日本中の原発を止め、廃炉行程に入り、使用済み核燃料を再処理せずに最終処分する道を探るしかありません。国内のどこかに最終処分場を作り、地下深く、そして、10万年以上経っても掘り出されないようにするしかありません(フィンランドと同じ選択)。気の遠くなるような話ですが、今からたった50年ほど前に動き出した原発によって、10万年以上に渡る恐怖の責任を負っているのが、今の私たちなのです。

「今止まっている原発を一基も再稼働させてはいけない」。この言葉は、もう夢や理想でもなんでもありません。現実的な目標なのです。

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