自然放射線を正しく知る(3)

次にウラン系列(ウラン・ラジウム系列とも言う)です。
ウラン238は、放射線を出しながら、様々な放射性物質に変わり、最終的には鉛206に安定します。この過程をウラン238の崩壊系列、経由する放射性物質を孫核種と呼びます。
ほとんどが、半減期が短い元素ですが、ウラン234(半減期:24万6千年)、トリウム230(7万5千年)、ラジウム226(1600年)、ラドン222(3.82日)は半減期が比較的長いことから、自然界で存在が確認できます。
ラドン222以外は常温では固体である上、放出されるのは遠くまで飛べないアルファ線かベータ線が中心ですから、岩石中の中にある限りは心配はありません(若干のガンマ線が空間線量に影響を及ぼす)。
しかし、体内に取り込むと深刻な問題になります。自然放射線の範疇ではありませんが、どの孫核種も、ウラン鉱山などで粉じんとして体内に入った場合は、肺、膵臓、肝臓に発ガンの危険性が高まります。ラドン222は常温で気体なので、大気中に広く存在します。世界で見ると10~100ベクレル/立方メートルの濃度で、日本では平均13ベクレル/立方メートルとされます。

アルファ崩壊なので、内部被ばくを考慮する必用があります。呼吸で肺に吸い込んだラドン222などから受ける被ばく線量は世界平均で1.3ミリシーベルト/年とされ、自然放射線による年間被ばく量=2.4ミリシーベルト/年の半分以上を占めます。

次も自然放射線の範疇ではありませんが、ウラン鉱山近傍ではラドン222の濃度が高まります。
日本では唯一のウラン鉱山があった岡山・鳥取県境の人形峠では悲惨な事態になりました。多くの鉱山労働者を出した24世帯150人ほどの集落(鳥取県側の方面(かたも)地区)で、20年間で8人、28年間では11人がガンで死亡したのです。男性の肺ガン死亡率は全国平均の26倍になったそうです【参考サイト】。
アメリカでも同様の事態が起きており、アリゾナ州のレッドロックのウラン鉱山では、約400人の鉱山労働者(ほとんどが先住民)のうち約70人が肺ガンで死亡しています【参考サイト】。

http://www.marino.ne.jp/~rendaico/genshiryokuhatudenco/uranmondaico2.htm
自然放射線中で、もっとも問題視されているのはラドン222を吸い込んだ場合の内部被ばくです。ラドン222は絶対に増やしてはいけないし、ウランの採掘さえしなければ増えません。

そう!人類にとって、そして地球上の生物にとって、ウランは掘ってはいけないものなのです。地中にそっと置いておけば、深刻な被ばくを引き起こすようなことはありません。それをひとたび、人の手に収めようとした時、とんでもない悲劇が起きるのです。

 

トリウム系列に話を進めましょう。
天然放射性物質の一つで、岩石の中に含まれるトリウム232は、様々な孫核種(放射性物質)を経由して、最終的には鉛208に安定します(詳しくはこちら)。
孫核種の内、ラドン220以外は常温では固体で、ほとんどがアルファ線かベータ線しか出しません。ウラン系列同様、岩石の中にある限り心配はありません(若干のガンマ線が空間線量に影響を及ぼす)。しかし、鉱山の粉じんなどで体内に入った場合は、内部被ばくが心配です。
唯一、常温で気体となるラドン220(トロンとも呼ばれる)は、半減期が55.6秒と短いので大きな問題はないと思われます(一部のサイトで、「ラドン220は大きな被ばく要因」とされているが、これは間違いでは…)。

余談ですが、ラドン温泉、トロン温泉、ラジウム温泉なるものが存在します。少なくとも放射性物質が身体に良いことはありませんので、個人的にはお薦めしません。放射性物質以外に含まれている微量元素が、なんらかの効果を及ぼす可能性は否定しませんが…

たいへんに長くなってしまいましたが、重要なことは、太古からあるバランスを崩すとたいへんなことになるということです。

カリウム40の半減期は12.5億年です。ということは、体内での濃度=67ベクレル/kgは、人類が地球に登場して以来、ほとんど変化していないはずです。セシウム134とか137が体内に入れば、100万年以上変化していなかったカリウム40の濃度を上げるのと同じことになるのです。
ウラン系列やトリウム系列は、自然界にある限り問題はありません。掘るから悲劇が起きるのです。自然放射線や天然放射性物質は、そっとしておいてあげる。それが唯一の道。
原発や核兵器が生む人工放射線は、人類を含むすべての生物が、長い時間をかけて築き上げてきた自然放射線との間の微妙なバランスを根底から崩してしまうのです。

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