放射性物質と核分裂生成物

当ブログでは、「放射性物質」と「核分裂生成物」という単語を使い分けてきました。これは、自然界にも存在する「放射性物質」と、原子力発電や核爆発でしか生じない「核分裂生成物」を区別するためです。

「核分裂生成物」の多くは「放射性物質」に含まれます(一部、放射線を発しない安定元素も有り)。しかし、大事なことは、そこには自然界には決して存在しない物質があるということです。この点を曖昧にしたくなかったので、あえて「核分裂生成物」という言葉を中心に使ってきました。

核分裂生成物の多くは、なぜ自然界には存在しないのか?
半減期が短いからです。もはや有名になってしまったヨウ素131の半減期は8日、セシウム137とストロンチウム90は30年、テルル132は3日、コバルト60は5.3年、クリプトン85は10.8年。宇宙の歴史や地球の歴史から考えたら、多くの核分裂生成物の寿命は一瞬。仮に超新星爆発や地球誕生の時に存在していたとしても、はるか昔に他の安定的な物質(元素)に変わっています。

原発や原爆は、自然界に存在しない危険な物質=核分裂生成物を新たに作り出します。そして、核分裂生成物の危険性を取り除くには、物質みずからが崩壊するのを待つしかなく、人為的に解毒や分解といったことができません。基本的なことですが、この点をもう一度、確認しておきましょう。

さて、ウラン235に中性子が当たると、二つの物質に分裂し、同時に中性子を1~4個放出。この中性子が別のウラン235に衝突。この繰り返しが連鎖的核分裂反応です。分裂してできる物質は100種類以上(一説によると1000種類以上)に及びます。そのうちの代表的なものが、ヨウ素131やセシウム137です。

では、その片割れはどうなっているのでしょうか?セシウム137を例に考えてみましょう。
原子名の後ろについている数字は質量数といって、陽子の数と中性子の数を足したものです。ということは、ウラン235(陽子92個・中性子143個)の核分裂では、原子の質量数に中性子1個を加えた、質量数236が二つに分裂し、同時に中性子が1~4個生成されます。
核分裂の前後で、陽子数の合計は変わりません。ウランの陽子数が92、セシウムの陽子数が55ですから、引き算をすれば、片割れの陽子数は37になることが分かります。陽子数とは原子番号そのもの。片割れの原子は原子番号37のルビジウムです。
ただ、核分裂の際に飛び出す中性子の数によって、そのルビジウムの質量数は変わりますので、ルビジウム95からルビジウム98まで、4種類の核種=同位体(同じ元素で陽子数は同じだが、中性子数が違う)がありえます。
文章だけでは分かりにくいと思いますので、表にしてみました。

しかし、これらのルビジウムが核分裂生成物として話題に上ることはありません。半減期がきわめて短く、アッと言う間に別な物質に変わってしまうからです。
さらに、ルビジウム95の場合は、ストロンチウム95→イットリウム95→ジルコニウム95→ニオブ95という複雑な変化(崩壊)を遂げて、最後はモリブデン95という安定した原子になります。
この過程は、日本科学未来館のホームページで分かりやすく解説してあります。原発推進の広報ページなので注意は必要ですが、この件に関しては正しい情報です。
一方、このページで触れていないのは、原子が変化(崩壊)する過程で、必ずガンマ線やベータ線といった放射線を放出する点です。ルビジウム95は、何度も放射線を発しながら、やっと最後にモリブデン95として安定するのだということを忘れてはなりません。

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