崩壊した五重の壁(2)

では、その頃、炉内はどうなっていたのでしょうか?
燃料棒被覆管が溶けても、まだ、ペレットの二酸化ウランの融点には至りません。バラバラとペレットは圧力容器の底部に落ち、溜まっていったはずです。ペレットは、核分裂生成物の崩壊熱により、やがて融点を超えて溶け始めます。核燃料が溶岩のようになる核燃料溶融(メルトダウン)です。ただ、完全な空焚きにはなっていないようなので、おそらく水中での出来事でしょう。集まったペレットの中心部でメルトダウンが起き、水と接している部分は固体のままという状態が想像できます。いずれにしても、溶けた核燃料は鋼鉄の融点=1,600℃よりも高い温度なので、第3の壁=圧力容器のところどころを破壊しているでしょう。これが、圧力容器に注入した水が、どんどん漏れていく原因。「穴の開いたヤカンに水を注いでいるようなもの」と揶揄される由縁です。

2号炉では、第4の壁=格納容器の一部である圧力抑制室(サプレッションプール)が破損しているようですが、これも溶融した核燃料によるものではないかと考えられます。

今回の事故では、「五重の壁」がすべて崩れました。それも短い時間の間に。どの「壁」も、しばし持ちこたえることさえできなかったのです。見直してみると、停電によって炉内の冷却水の循環が止まっただけで、簡単にすべての壁が崩れ去っています。地震が… 津波が… 東電は歯切れの悪い言い訳を続けていますが、実は「停電」だったのです。原子力発電が、綱渡りのような馬鹿げた危険とともにあることがよく分かります。

最後に、電力会社などが宣伝している、虚しいばかりの「五重の壁の安全性」をご紹介しておきます。

東京電力「一つが有効でなくなっても、他の壁でバックアップできるという仕組み」
関西電力「放射性物質が外部に放出されるリスクはほとんどありません」
九州電力「原子力発電所は、「多重防護」の考え方を基本としています」
資源エネルギー庁「安全のための五重の壁」
原子力安全技術センター「五重の壁と呼ばれる閉じ込め対策」
日本原子力文化振興財団「がっちりガードを固めています」

どれを見ても、呆れかえるばかりです。

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