放医研(放射線医学総合研究所)が、今ごろになって言い訳じみた変なことを言い始めています。そして、その言い訳に誤魔化しの上塗りをしようとしているのが日本政府。福島の子どもたちの命に関わる問題で。
政府は昨年3月下旬、いわき市や川俣町、飯舘村など10市町村以上で15歳以下の1080人に対して、ヨウ素131の体内への取り込み(内部被ばく)状況を調査しました。
結果が発表されたのは、5か月も経ったあとの8月。1080人の内、55%の保護者に「ゼロ」と通知しましたが、当然、これには「検出限界以下」が含まれています。
そして、この時のデータを放医研が独自に計算しなおしたところ、「ゼロ」と通知した例でも、実際は一定の被曝をしていた可能性の高いことが分かったというのです。この結果について、政府は「誤差が大きく、不安を招く」として、今後も保護者に通知しない方針だと強弁しています。
一体何のための検査だったのでしょうか?不安を招くから発表しない!?そもそも、巨大な不安を作り出したのは日本政府と東電なのです。すべてを公開しなければ、福島第1は教訓にすらならないし、ギリギリの救済策すら実行しようがないのです。そして、発表しないことがどれだけ不安を増幅しているのか、いまだに分かっていないのでしょうか。腹の底から怒りが沸いてきます。
福島「線量ゼロ」の子でも一定の被爆 放医研が独自計算【朝日新聞】
福島第1から漏出した放射性ヨウ素の大部分を占めるヨウ素131の半減期は、ご存じの通り8日と短いものです。短い期間に甲状腺の細胞にあるDNAに深い傷を負わせた後、消えてしまいます。従って、事故後、数週間から長くても数か月の間に検査をしないと、甲状腺に入ったヨウ素131を直接確認することはできません。
しかしDNAに傷は残されています。だからこそ甲状腺ガンを発症するのですから…
放射線によるDNAの破壊には、次の図に示す2つのパターンがあります。ひとつは、放射線によるDNAの直接破壊。もう一つは、体内にある水分子が放射線を受けることで活性酸素が発生し、これがDNAを破壊するパターンです。
…と言ってしまうと、遺伝情報は染色体にあるのか?DNAにあるのか?と混乱しがちですが、それぞれの染色体の中には非常に長い1本のDNAが折りたたまれて収まっているのです。DNAは遺伝情報そのもので、染色体はそのかたまりと考えれば分かりやすいでしょう。
染色体異常には様々な形がありますが、主に放射線によってのみ引き起こされる2つのパターンが確認されています。<二動原体染色体>と<環状染色体>です。
…ということは、甲状腺細胞の染色体を顕微鏡で調べれば、ヨウ素131による被爆があったかどうかは、明確に分かるし、甲状腺ガンの危険性も予測できます。
しかし、国や調査機関は染色体を調べようとしません。なぜ?ひと言で言えば、面倒だから。染色液と顕微鏡があればできる簡単な検査なのですが、一人あたり数百の細胞を調べて、染色体異常の数や種類を目視でカウントする必要があるのです。人手と時間がかかります。
しかし、その言い訳は通じません。国はこの原発事故に大きな責任を負っているのです。そして、内部被ばくの恐怖にさらされながら生きている福島の人たちには、何の落ち度もないのですから。
染色体分析は、手間は掛かりますが、ホールボディカウンターのような高価な機器は必要としません。尿検査のような大きな誤差もありません。広いエリアで、たくさんの人の染色体異常の状況をつぶさに掌握できれば、ヨウ素131による内部被ばくの広がりを正確に知ることができます。
結果、残念ながら多くの染色体異常が発見された人に関しては、健康状態を注意深く観察し適切な対策を講じることで、できるだけ発症しないようにできるはずです。仮に発症しても、重症化する前に抑え込める可能性が高まります。悲劇を少しでも減らすことは不可能ではありません。
これまで、放射線被ばくによる染色体異常に関する研究がなかったのかというと、実はそんなことはありません。
チェルノブイリ事故による子どもの甲状腺ガンの増加に関して、DNAや染色体の損傷との関連を研究した論文があります(かなり専門的な内容ですが)。
医師の一分『低線量被曝による小児の甲状腺癌患者の染色体7q11異常』
チェルノブイリの苦い教訓。その研究成果があるのに、少しも生かそうとしない日本政府。大きな憤りと怒りを感じざるを得ません。
ただちに、福島を中心とする広範なエリアで、甲状腺細胞の染色体分析調査を実施すべきだと考えます。
いや、本当の事を言えば、甲状腺だけでなく、赤血球や筋細胞、造血細胞の染色体分析を実施すれば、いま、闇の中に隠されようとしている被ばくの実態が明らかになるはずなのです。
それは、多くの人たちをギリギリの所で救う助けになるでしょうし、これから先、私たち日本人が、いや、人類が原子力とどう向き合うべきなのかを教えてくれる貴重なデータになるはずなのです。