4号機 核燃料プールの危険性【1】

3.11から一年が経とうとしています。
福島第1の現状はどうでしょうか… 日本政府は無理矢理の「冷温停止宣言」を発しましたが、現実は、その言葉からほど遠いものです。
塩ビのパイプやホースをつないだ仮設の循環冷却システムは、あちこちで水漏れ。放射性物質の濾過装置は頻繁に停止。いったいどれほどの水が循環できているのか… 大きな余震(あるいはあらたな地震)に襲われたら、仮設循環冷却システムは、ひとたまりもないでしょう。その時には、原子炉や核燃料プールの暴走が始まり、核燃料溶融・臨界といった最悪の事態に向かいます。

そうした中、国内の良心的な研究者はもとより、世界中がもっとも危険視しているのが、4号機の核燃料プールです(一般には、使用済み核燃料プールと呼ばれることが多いですが、使用前の新核燃料も貯蔵されるので、以下、核燃料プールと記述します)。

これまで当ブログでは、4号機の問題を大きく扱ったことがなかったので、一年を期に、じっくりと見直してみることにしました。そして、調べていくに従って、4号機が抱える危険性は、日本の原発が、いや、世界中にある原発が本質的に抱える問題を象徴しているのだということが分かってきました。

■原子炉と核燃料プール
この話を進める前に、原子炉と核燃料プールの関係を簡単に整理しておきましょう(ここでは、プールの話が中心になるため、図では核燃料プールを実際より大きめに描いています)。

左は運転中の原子炉で、炉心では臨界状態の核燃料が核分裂連鎖反応で発熱し、大量の水蒸気を発生。その力で発電用のタービンを回します。
核燃料プールには、使用済み核燃料と、交換用の新核燃料が貯蔵されています。
圧力容器の上の原子炉ウェルのウェル(well)とは、井戸のことで、ちょうど井戸の底に原子炉を埋め込んだような形になっているので、この呼ばれています。

当然、核燃料には寿命があります。福島第1のような沸騰水型原子炉では、1年に1回、1/3ずつを新しい燃料集合体(燃料棒の束)に入れ替えています。つまり、核燃料の寿命は3年だということです。
使い終えたばかりの核燃料は、猛烈に発熱し、放射線量もきわめて高い状態です。ですから、原子炉と核燃料プールの間の燃料集合体のやり取りは、右図のように、原子炉ウェルを水で満たし、すべてを水中で行わなければなりません。

今回の事故で、「なぜ、核燃料プールを危険な高い場所に設置したのか?」という疑問が出されていますが、少なくとも沸騰水型原子炉では、燃料交換の都合から、核燃料プールは高ところに作らざるを得ないのです。「プールをもっと深くすれば…」という意見があるかも知れませんが、それでは設備に費用がかかる上、燃料交換作業が難しくなり、効率が悪いのです。

プールでは核燃料をただ水につけておけばよいわけではありません。使用済み核燃料は、核分裂生成物の崩壊によって、猛烈な熱を発しています。放っておいたら、プールの水はたちまち沸騰、蒸発し、空焚き状態になって、核燃料はみずから発する熱で溶け出してしまうのです。
そうなったら、環境中に大量の放射性物質と放射線が放出されることになります。

■偶然回避された最悪の事態
4号機は2010年11月30日から定期点検に入っていました。あわせて進んでいたのが、圧力容器内の改修作業(炉心隔壁の交換作業)です。このため、炉心にあった核燃料は、すべて核燃料プールに移された状態でした。
下図の状態です。

この時、原子炉ウェルが水で満たされていたのは、まさに偶然。燃料集合体の移動は終わっていましたから、ウェルに水を張っておく必要はなかったのです。
実際、3.11の4日前、3月7日には、水を抜く予定なっていました。ところが、圧力容器内の改修作業が不手際で遅れたため、ウェルは水を張ったままになっていたのです。

次の図に進みましょう。4号炉で起きた事故の流れを示しています。

地震と津波の影響で全電源喪失。核燃料プール内の冷却水が循環しなくなり、水温は見る見る上昇。蒸発も進み、核燃料が水面に顔を出す直前まで事態は進行しました。②の状態です。
ところが、プールとウェルの間にあるプールゲート(水門)は、常にプールの方が水圧が高いという前提で作られています。その結果、プール側の水量が減るに従い、ウェル側からの水圧に耐えきれず破損したのです。
ウェルから約1千トンという大量の水が核燃料プールに流れ込みました。これは、原子炉の設計上からは、まったくの「想定外」の出来事でした。
この時、ウェルから水が流れ込むことがなければ、ほどなく、核燃料プールは完全な空焚き状態になり、核燃料溶融、さらには臨界という事態になったでしょう。
現在の比ではない大量の放射性物質が撒き散らされ、首都圏からも住民が避難しなくてはいけない最悪の事態に進んでいた可能性が高いのです。それは、間違いなくチェルノブイリを越える人類史上最悪の事故です。

●朝日新聞に関連記事あり

次のグラフは、東電が2011年12月2日に公表した「福島原子力事故調査報告書(中間報告書)」の添付資料にあるものです。

分かり難いグラフなので、要点をかいつまんで説明しましょう。
3月14日あたりから水温が90℃に達しています。核燃料の附近では沸騰状態でしょう。水が大きく減ったのが3月15日。その深夜、プールゲートが壊れ、ウェルから水が流入したようです。これにより、満水からマイナス4メートルから3メートルくらいで、水位低下のスピードが落ちています。
しかしそれでも、水位は徐々に下がっていきました。4月21日の段階では、核燃料の頭頂部から1.5メートルにまで迫っています。その後、これまた偶然なのですが、4月22日に、注水によって高くなったプール側からの水圧によって、プールゲートが閉まったのです(完全に閉まったかどうかは分かりませんが、少なくとも水がプールから流れ出しにくくなった)。これによって、注水された水が、プールにだけ留まるようになったので、水位が上がりやすくなったとされています。その後、砂上楼閣的ではあるのですが、一応、安定した状態にはなっています。

しかし、4号炉が最悪の状態にならないで済むために、いくつの偶然があったでしょうか?
1. 原子炉ウェルに水があったこと。
2. プールゲートが、ウェル側からの水圧で破損したこと。
3. プールゲートが、プール側からの水圧で閉まったこと。
この三つの偶然のうち、一つでも起きなければ、どうなっていたのか?それを考えると背筋が寒くなります。

今、福島で避難している人たち、高線量下での生活を余儀なくされている人たち、あるいは、内部被ばくの恐怖の中で暮らす私たちにとって、「幸い」という言葉があまりに不似合いです。しかし、あえて言いましょう。上記の三つの『不幸中の幸い』があったからこそ、結果的に、福島第1は『人類史上最悪の事故』になるのを辛うじて逃れているのです。
最悪のシナリオまで、あと一歩。まさに危機一髪だったのです。

では、危機は去ったのか?
そうではありません。
長くなるので、この先は、次の記事にすることにします。

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