2号機圧力容器内の温度が上昇し、大きな問題となっています。
いったい何が起きているのか… 不安に苛まれます。
しかし、一歩引いて冷静に見つめ直してみると、この問題、下手をすると東電に騙されてしまいかねません。炉内温度の上昇を、ちょっと違う視点から見つめ直してみましょう。
2号機圧力容器の内径は5.57メートルもあり、東電の発表を信じるなら、現在の水位は2メートル前後です。
まず、この半径=5.57メートル、高さ=2メートルという流水で満たされた円筒形の空間。温度計は、たったの6個しかありません。そしてそこには、毎時10トン以上という、もの凄い量の水が注がれ続けています。
にわか造りの給水システムが凍結し、給水が止まって問題になっているくらいですから、水の温度は、凍てつく摂氏零度にきわめて近い温度のはずです。
ここで、ひとつ思いだして欲しいのは、東電が正常だと言っている他の5個の温度計です。みな30℃以上を示しています。注ぎ込まれた大量の氷温水のすべてが、アッと言う間に、ぬるま湯になってしまう… 通常の感覚では、信じられないことです。
不謹慎と言われるかも知れませんが、分かりやすい喩えをしましょう。
想定するのは20席ほどの焼肉屋の客席。テーブルが5卓。どの卓上にも炭火の七輪が乗っています。満席になって、5台の七輪が燃えさかれば、外は氷点下でも暖房なんて要りません。一方、壁のあっちこっちに吊り下げられた温度計を見てみましょう。まぁ、25℃~28℃くらいでしょう。焼肉を突っつく私たちは、少しばかり火に近いですから、体感温度は30℃くらいでしょうか。
しかし、実は、目の前で赤熱する木炭は、800℃~1000℃という温度です。
ここまで書けばお分かり方も多いと思いますが、毎時10トンの氷温水がアッと言う間に、30℃以上になるには、壊れた原子炉内に、もの凄く高い温度のものがあることを示しています。核燃料の崩壊熱のことを考えれば、当たり前のことなのですが…
2号機で、今現在、高温を示している温度計が壊れているのかどうかは分かりませんが、1号機から3号機のいずれの炉心でも、いまだに数百度の温度を保っている部分が、間違いなくあります。でなければ、大量の氷温水が、一瞬のうちに、ぬるま湯になってしまうなんてことはありませんから。
30数℃を示している温度計は、たまたま赤熱部分から遠いだけです。
もう一点、明確にしておきたいのは、崩壊熱と臨界によって発する熱の違いです。原発反対派の中にも誤解があって、温度上昇=再臨界と騒ぎ立てる人たちもいますが、次のことを明確に理解しておく必要があります。
●臨界にならなくても、使用済み核燃料(使用中核燃料)は、崩壊熱によって温度が上がり、水で冷却しなければ、ほどなく再溶融する。
●臨界状態になるための条件は、ウラン235またはプルトニウム239の濃度、塊の大きさ、形状によって決まり、温度は直接的には無関係。
●「崩壊熱で温度上昇」→「再溶融」→「形状が変わり再臨界」というストーリーはあり得る。
●「再臨界」→「温度上昇」→「再溶融」というストーリーもあり得る。
東電は、「半減期の短い気体放射性物質が検出されていない」→「再臨界は起きていない」→「温度計が故障している」という理屈で押し切ろうとしています。しかし、彼らは、今の原子炉内の温度と再臨界が無関係である事を知っているのです。
マスメディアも含めて、「再臨界してないから大丈夫」という論理に騙されかけているので、これは要注意。現状を見る限り、事の本質は、崩壊熱にあり、6本の温度計のウチの1本の近くに、溶融して固まった核燃料が集まっている可能性が高いです(再臨界の可能性を100%否定はできませんが)。
では、「たまたま集まっているだけだから大丈夫!」なのか… いえいえ、そんなことはありません。
福島第1の原子炉のいずれもは、まだまだ数百度という赤熱する塊を抱え込んでおり、それを冷やしきるためには、とてつもない時間と労力がいるということです。そして、その塊からは、熱エネルギーと放射線が放出され、水中に放射性物質が溶け出し続けています。
半径=5.57メートル、高さ=2メートルの中に、たった6本の温度計を挿して、「30℃だから大丈夫!」と言っていることの方に大きな問題がるのです。
にわか造りの冷却システムが、余震やあらたな地震、凍結などによって破壊された時、また大きな悲劇の幕が開きます。国は住民の帰還を検討しはじめていますが、とんでもない話でしょう。
まず、東電と国は、一部とはいえ、水温が80℃を越えたその原因を明確にすべきです。
それに加えて、毎時10トン以上の氷温水が、なぜ、アッと言う間に30℃以上になってしまうのか… その理由をすべての人に分かりやすく説明する必要があります。
そして、対策があるなら、どんなに費用がかかろうと、それを実行すべきでしょう。そうしなれければ、ちょっとした偶然や間違いで、福島が、いや東日本が、本当の意味で失われてしまう可能性があります。