破綻した核燃料サイクル

どうやら、高速増殖炉『もんじゅ』が廃炉になりそうです。

もんじゅ、廃炉含め検討 細野原発相「一つの曲がり角」』【朝日新聞】

細野豪志原発事故担当相は、「一つの曲がり角に来ている。何らかの判断を来年はしなければならない」と述べています。
グズグズしている必要はありません。直ちに廃炉プロセスに入るべきです。すぐに始めたって、10年以上はかかるのですから。

高速増殖炉は、使用済み核燃料からプルトニウムとウランを取り出して再利用するというもの。再処理工場と並ぶ、いわば「夢の核燃料サイクル」の中核とも言うべきものです。事実上のもんじゅの廃炉決定。やっと、国が核燃料サイクルの破綻を認めた形です。

あまり大ニュースにはなりませんでしたが、もう一つ、核燃料サイクルがらみのニュースがありました。

核燃:ロシアの再処理提案文書を隠蔽 「六ケ所」の妨げと』【毎日新聞

2002年に、ロシアから日本に対して行われた使用済み核燃料の受け入れ&再処理の申し出が、資源エネルギー庁の一部幹部によって握りつぶされていたのです。
当時、六ヶ所村再処理工場はトラブル続発。高コストも問題視されていました。記事の中にあるエネ庁幹部の「極秘だが使用済み核燃料をロシアに持って行く手がある。しかしそれでは六ケ所が動かなくなる」という発言が、すべてを物語っています。
9年前、核燃料サイクルそのものが成立しなくなる可能性を当事者たちは感じとっていたのです。ですから、汚い手を使ってまでも、情報を隠蔽しました。
なぜ?
核燃料サイクルがなくなると、自分の出世がなくなるからです。天秤の片方の皿に乗っているのは、私たちの健康と安全。反対側の天秤皿には官僚たちの出世。秤を操作しているのは官僚たち。このことに気が付かなかった私たちにも、少し責任があります。

では、幾つかのテーマに絞って、核燃料サイクルの話を進めましょう。

●核燃料サイクルの嘘
まず、核燃料サイクルの考え方を示す図をご覧ください。

あっちこっちの原発推進派の広報サイトにある核燃料サイクルの図と似ていますが、決定的に違うところがあります。原発と再処理工場から出る放射性排気と放射性廃液です。原発推進派は、ものの見事に、この点に目をつぶっています。
詳しく言えば、原発から出る放射性排気も問題なのですが、実は、再処理工場からは、同じ時間内に原発の1万倍もの放射性物質が出ます(主に廃液)。

原子炉も無いのになぜ?と思われる方も多いかと思いますので解説しましょう。
再処理の過程では、使用済み核燃料を硝酸に溶かす必要があります。この溶液からプルトニウムとウランを抽出したあと、残りを高レベル放射性廃棄物としてガラス固化体に固めるのですが、すべてをガラス化することは技術的にも、コスト的にも、不可能なのです。
残った放射性廃液はどこへ?
海に流します。現在、再処理をビジネスとして行っているのは、フランスのラ・アーグとイギリスのセラフィールドにある再処理工場。どちらも、放射性廃液を海に流して、海洋汚染が大きな問題になっています。六ヶ所村も同じことをしようとしています。いや、せざるを得ないのです。再処理をする限りは。

放射性廃棄物を海に棄てておいて、何が核燃料サイクルなのでしょうか!?本来、○○サイクルと言ったら、閉鎖系でなくはいけません。「ゼロ・エミッション=排出物無し」です。
再処理工場から放射性廃液が大量に出る。核燃料サイクルには、根本的な嘘が隠されています。

●高速増殖炉の危険性
1980年代までは、世界各国が高速増殖炉の実用化に向けて、積極的な姿勢を示していました。「夢の原子炉」と言われていました。
しかし、政治的には、プルトニウムが世界的に拡散することを後押しする可能性があること。技術的には、冷却剤に液体ナトリウムを使用するという、大事故と背中合せのようなシステム。この二つを解決することができず、アメリカを含む各国が、開発中止を表明しています。
日本が、事実上の撤退表明をしましたので、今、本格的に開発を進めているのはフランスだけになりました(ロシア、中国、インドも開発の姿勢だけは示していますが)。

液体ナトリウムの恐ろしさ… それは、水に触れただけで大爆発を起こすことです。
次の映像は、第二次世界大戦中にアメリカが溜め込んでいた液体ナトリウムを、湖に廃棄する場面です。少しばかり古い映像ですが、液体ナトリウムの恐ろしさを伝えるには十分です。

Disposal of sodium

高速増殖炉では、炉心を冷やす(炉心から熱を取り出す)ために、水の代わりに液体ナトリウムを使います。熱を受け渡す効率が良いからです。
しかし、発電機のタービンを回すためには、最終的には水蒸気が必要ですから、炉心で高熱に熱せられた液体ナトリウムの熱で、水を沸騰させ水蒸気にします。
液体ナトリウムと水の間にあるのは、金属製のパイプの厚みだけです。そして、熱をより効率よく伝えるためには、パイプは、できるだけ薄い方がよいのです。
この話を読んだだけで、高速増殖炉が、まさに砂上楼閣、怪物の綱渡りのようなものなのだということが、お分かりいただけたかと思います。薄いパイプに、何らかの理由で傷が付き、そこから穴が空いたら… いや、大地震で、そのパイプ自体が折れたら… とんでもない大惨事が待っています。

●再処理工場はプルトニウム抽出工場
世界初の再処理工場が稼働したのは1944年です。
原子力発電も行われていなかった時代に、なぜ、再処理工場が?
アメリカのハンフォード核施設。長崎に投下する原爆を作るために再処理工場が作られました。再処理工場などと言われると聞こえが良いですが、その実態は、プルトニウム抽出工場に他なりません。
最初に示した核燃料サイクルの図から、余計な部分を消すと、簡単にプルトニウム爆弾を作るためのフローチャートになります。

原子力発電自体が、軍事技術の民生転用ではあるのですが、再処理工場は、その最たるものです。逆も真なりで、民生用の再処理工場は、簡単に軍事転用可能。再処理工場さえあれば、数ヶ月でプロトニウム原爆は作れます。
今、再処理工場(再処理施設)を稼働させている国は、英・仏・ロシア・中国・インド・パキスタン・イスラエル・北朝鮮・アルゼンチン・日本だとされています。

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核燃料サイクルについて、高速増殖炉と再処理工場という二つの側面から見てきました。本当に初歩的な話だけを書いたつもりですが、これだけでも、核燃料サイクルの恐ろしさと馬鹿馬鹿しさは、ご理解いただけたかと思います。

「もんじゅ」の事実上の廃炉決定。まずこれを確実に、出来るだけ早く実行させなくてはいけません。
次は「核燃料サイクルからの全面撤退=六ヶ所村再処理工場の廃止」です。
そして、全原発を廃炉へ。気を緩めている暇はありません。

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