ソフトバンクの孫正義氏が、脱原発を目指す『自然エネルギー財団』を設立したのは、多くの皆さんがご存じの通りです。
ドイツでは、原発に深く関わってきた大手電機メーカーのシーメンスが、原子力事業からの完全撤退を宣言【朝日新聞9月19日】。日本で言えば、日立や東芝が、脱原発を宣言したようなものですから、大変な出来事です。シーメンスは多国籍企業で、外国の原発にも関わってきましたが、それも含めて止めるということです。
アメリカの世界的に有名なIT企業は、原発関連の事業にだけは手を出さないことを内規で決めているそうです。万一、コンピューターシステムが原因で事故が起きた時、補償のリスクを担保しきれないというのが理由。これは福島第1の影響ではなく、会社設立当初からの方針だそうです。
日本では、城南信金が4月の段階で脱原発宣言。大きな反響を呼びました。
スズキ自動車は、中電浜岡原発から11kmの距離にある相良工場を危険だと判断。原発事故時に従業員の命を守りきれないからです。移転を検討していましたが、7月に「浜岡原発再開なければ工場移さず」の方針を明らかにしています。
さらに、アメリカの、これまた超有名な半導体メーカーの上層部から、私が直接聞いた話があります。
「半導体メーカーにとっては、原発よりも太陽光発電の方が、ずっと儲かります。なぜかと言うと、<一つの発電システム>という意味では、原子炉1機も太陽光パネル1枚も同じです。極論すれば、原子炉一つに一個必要なチップが、太陽光パネル1枚にも一個必要なのです。太陽光パネルが千枚並べば、同じチップが千個売れるということです。巨大技術やエネルギーの中央集権は半導体メーカーにとっては困りもの。エネルギーの地方分散、地産地消は、私たちにとって大きなビジネスチャンスになるでしょう」。そして、こう続けました。「すでにこのビジネスは始まっています。日本の半導体メーカーの東芝や日立は、原子力に深く関わりすぎているので、太陽光発電などの再生可能エネルギー分野に大きく舵を切ることができません。私たちに追いつくとはないでしょう!」
なぜか悔しい!しかし、東芝や日立よりも、この半導体メーカーの判断の方が、間違いなく正しいのです。
企業によって、「社会的な責任に照らして」「従業員の安全を確保するため」「経営上のリスク回避のため」、あるいは「純粋に利潤追求の立場から」と様々な理由があっての、脱原発です。そのどれも、否定する必要はないでしょう。逆に、こういった動きが、ますます強まれば、脱原発のうねりに大きな弾みがつきます。
「脱原発は集団ヒステリー」なんて言ってた連中に、大恥をかかせてあげましょう!
さて、企業の脱原発の話を追っていくと、最後には、原子炉メーカーの話に辿り着きます。世界的な原子炉メーカーや、アメリカという国そのものが、実は、かなり前から原子力事業に及び腰になっていたのです。
まず、福島第1の1号炉、2号炉、6号炉を始め、日本にある多くの沸騰水型原子炉を製造したGE(ゼネラルエレクトリック社)。2006年に、日立製作所とGE双方の原子力部門を統合し、日立GEニュークリア・エナジー(日本市場担当)を設立しています。株式の割合は、日立が80%、GEが20%。世界市場を担当するGE-Hitachi Nuclear Energy の株式は、日立が40%、GEが60%です。GE一社が負ってきた原子力事業のうちのかなりの部分を日立が肩代わりする形になりました。
一方、関西電力などが導入している加圧水型原子炉で有名なウェスティングハウス・エレクトリック。アメリカの代表的な総合電機メーカーだったのですが、すでに元々の会社はありません。最後まで残っていた商業用原子力部門を英国核燃料会社(BNFL)に売却したのが1997年。BNFLは2006年に、それを東芝に転売。現在、ウェスティングハウスは、100%東芝傘下の会社です(名前だけはウェスティングハウス・エレクトリック・カンパニー)。国策の幹であったはずの原子力産業を他国の会社に売ってしまう… 少なくとも、アメリカとイギリスでは、投資的にも原子力が魅力を失っている証です。
GEとウェスティングハウスの動きを見てみると、スリーマイルアイランドとチェルノブイリの後の風向きの変化を巧みに読んで、アメリカは原発ビジネスのリスクを日本のメーカーに押しつけてきたのではないかと思えます。事故が起きたら会社が耐えきれない、という直接的なリスクと、「原発は、もう儲からない」という経営戦略上の理由の両方で。
冷静に歴史を見直してみれば、世界では、20年・30年前から、原子力企業でさえ、原子力から抜け出そうと画策してきたという逆説的な状況がありました。その流れの中で、巨大な原子力企業2社が、事実上、日本の傘下にある。いや、抱え込まされている。これは、恥ずべきことであるし、様々な意味で危険なことでしょう。