マスキー法とCVCCの奇跡を思いだそう!

いささか古い話になってしまい恐縮なのですが…
アメリカで、通称、マスキー法と呼ばれる大気浄化法改正法が成立したのは、1970年でした。提案者の上院議員、エドムンド・マスキーの名前を取って、マスキー法と呼ばれています。

その内容は、
●1975年以降に製造する自動車の排気ガス中の一酸化炭素(CO)、炭化水素(HC)の排出量を1970-1971年型の1/10以下にする。
●1976年以降に製造する自動車の排気ガス中の窒素酸化物(NOx)の排出量を1970-1971年型の1/10以下にする。
…というもの。5~6年で有害物質の排出量を1/10にするという極めて厳しい法律でした。当然、マスキー法の基準をクリアしていないクルマは、期限以降の販売を認めません。
規制値の厳しさから、世界中の自動車会社から強い反発を受けたマスキー法。実際には、細かい改訂が続いたようです。
しかし、当初の「厳しすぎるマスキー法」をクリアするクルマが、期限前の1973年に登場します。ホンダのシビック。搭載していたエンジンはCVCCと呼ばれる形式で、ホンダが独自に開発した低公害・低燃費のエンジンでした。それまでの常識からすれば奇跡のエンジン。シビックとCVCCは世界を席巻し、低公害車が一気に普及するキッカケになりました。「先行する行政」と「追いかける産業界」が見事に機能し合った好例とされます。

原発と無関係?いえいえ、そうではありません。
言いたいことは、イノベーション(技術革新)やブレークスルー(現状突破)への姿勢です。
「高い目標設定を行い、そこに向けて真摯に立ち向かうことで、新たなイノベーションやブレイクスルーが生まれる」ということなのです。一見、根性主義(笑)に思えますが、マスキー法とCVCCの歴史以外にも、たくさんの事例を見ることができます。「ガガーリンによる人類初の宇宙飛行」「アポロ11号による月面着陸」「東海道新幹線の成功」などは、その典型でしょう。
電力分野においても、イノベーションやブレークスルーは、絶対に可能です。

今、福島第1の事故を受けて、電力を中心とする日本のエネルギー政策をどうするのかが大きな問題となっています。
少なくとも減原発の方向性は固まってきました。
しかし、「今ある原発を寿命まで使い切れば、自動的に日本から原発はなくなる」という消極的な意見から、「すべての原発を直ちに止めて、廃炉行程に入るべきだ」という積極的な意見まで、広い幅があります。
当ブログは、後者の立場を取ります。なぜか?もうこれほどの危険性と隣り合わせの生活を送りたくないからです。周辺住民から平穏な暮らしと健康を奪い取り、農業と漁業を破壊し、長い期間にわたって食べ物を汚染し続ける。原発はもう要りません。

この間、「自然エネルギーの開発には時間がかかるので、当面は原発で」といった意見が、目立ってきています。しかし、少々の苦労はしつつも、私たちはこの夏を乗り切ることができました。京大の小出先生によれば、真夏のピーク時であっても、少しだけ我慢をすれば、原発がまったくなくても停電は起きません

しかし、原発を無くすのは当然としても、二酸化炭素のことを考えたら、火力も減らしたい。大規模ダムも問題があるし… ということで、エネルギーの浪費をやめながら、自然エネルギーへのシフトを考える必要はあります。
その時に、イノベーションやブレークスルーを後押しする「高い目標設定」が必要なのです。
数日中に新しい総理が決まりそうですが、候補者はいずれも、脱原発から腰が引けていて、年内には止まっている原子炉を再稼働しようなどという発言も見られます。これは絶対に許してはなりません。新しい総理に求められているのは、敢えて高い目標設定をして、産業界の尻を叩くことなのです。
具体的に言えば、「すべての原発を直ちに停止し、廃炉プロセスへ」という明確な方向性の提示とともに、「1年以内に風力発電を○○万キロワットに」とか「3年以内に太陽光発電を○○万キロワットに」という目標を掲げることです。年限を区切って、電力会社に自然エネルギーの割合を上げさせ、達成できなければ罰則です。
産業界から言えば、国の方針が定まらないから、動きようにも動けないという状況もあるのです。マスキー法とCVCCの奇跡を思い出しましょう!

幸い、風力発電や太陽光発電は、設備としては簡便なもので、やる気になれば、数ヶ月である程度の施設を作ることができます。地熱発電や潮力発電は、風力や太陽光ほど簡単ではありませんが、オリンピック用の競技場を作るつもりでやれば、アッと言う間に造れます。そこに、新たなイノベーションやブレークスルーが加われば、発電効率が上がり、建設コストやランニングコストが大幅に下がる可能性があります。
電力会社は、送電線が… 送電システムが… と言いますが、こんなものは、大雑把に言えば、電線を引くだけです。それに、この間、飛躍的な進歩を遂げているITを絡ませれば、問題は次々と解決していくことでしょう。ここにも、イノベーションやブレークスルーの可能性が十分にあります。

基本的な構図は、「先行する行政」と「追いかける産業界」です。そして、マスキー法の時には、「先行する行政」の背後には、反公害運動という安全と安心を求める市民の大きな声があったことを忘れてはなりません。
新総理にお任せでは何も動きません。まず、私たち一人ひとりが声を上げていくことです。

附記:
すべての原発を直ちに止めたとしても、危険がなくなるわけではありません。1963年の国内初の原子力発電から48年。溜め込んできた使用済み核燃料(放射性廃棄物)が放出する放射線が環境に影響を及ぼさないレベルになるまでには、10万年以上の年月が必要です。そして、それらを安全に保管するための最終処分場は日本にはありません(世界を見渡してもフィンランドにしかない)。たった48年のために、10万年以上に渡る危険を私たちは背負い込んでいます。この危険を今以上に増やしてはいけないのです。
そのためには、とにかく、すべての原発を止めて、廃炉への道に踏み出すこと。原子炉の運転(核分裂連鎖反応)を止めれば、少なくとも、福島第1やチェルノブイリのようなシビア・アクシデントの可能性は大きく減ります。一年ほどすれば、燃料棒を原子炉から取り出して貯蔵プールに移すことができます。これで、さらに危険性は減ります。その三年後、燃料棒は中間処理施設に移せます。ここまでくれば、核燃料溶融や再臨界の危険性はなくなりますので、汚染物質や汚染水を徹底して管理することに注力すればよくなります。それでも、注意深く進める必要はあるのですが、これは、50年近くに渡って原発を認めてきてしまった私たちが、甘んじて背負わなくてはいけない、最低限の危険と負担と理解するしかないでしょう。

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