再溶融や再臨界は起きるのか

福島第1そのものは、今、どうなっているのでしょうか?どうも政局に目を奪われて、マスメディアも、私たちも、視点が一番重要な部分から離れているような気がします。
一度、冷静に見直してみましょう。

まず使用済み核燃料プールです。1号炉から4号炉まで、すべてで循環冷却システムが稼働し、水温は32℃~42℃(8/20現在)と安定してきています。
ただ、大きな余震や機械・設備の不具合から、冷却システムが止まったり、プールからの水漏れが起きれば、使用済み核燃料が、みずから発する崩壊熱で溶け出す可能性は残されています。
崩壊熱というのは、連鎖的核分裂反応によってできた核分裂生成物(ヨウ素131・セシウム137・ストロンチウム90など)や超ウラン元素(プルトニウム239やアメリシウム241など)が、放射線を出して崩壊する際に、その放射線が他の物質に衝突して発生する熱のこと。核燃料は、崩壊熱が少なくなるまで、使用後3年間は原子炉に付属するプール内で、循環する水を使って冷却し続けないと、どこにも動かせません。

最悪の場合、使用済み核燃料プールで核燃料が溶融する可能性があると記しましたが、再臨界はどうでしょうか?溶融した核燃料がプールの底に有る限り、平らに集まるので、再臨界の可能性は低いと思われます。
しかし、大量の核燃料が一気に溶融すれば、<水が無い→崩壊熱で温度が上がる→さらに水が蒸発して無くなる→崩壊熱でさらに温度が上がる>という悪循環が起きます。溶融した使用済み核燃料は、プールの底のコンクリートを溶かして、下に落ちていくでしょう。この時、何が起こるのか… 下に何があるのかによって決まります。大量の水があれば、水蒸気爆発です。

この使用済み核燃料に対する危惧は、福島第1でなくても、すべての原子力発電所に当てはまります。ただ、福島第1の場合は、地震・津波・水素爆発で建屋や施設が大きく損傷。循環冷却システムは仮設と言ってよい急造り。不具合が発生する可能性が高いので、危険性は、より高いのです。

1号炉から3号炉までの原子炉本体はどうでしょうか。
いまだに圧力容器内の、本来、燃料棒の頭頂部がある位置よりも2メートル前後下の位置までしか水で満たされていません。燃料棒は4メートル程の長さですから、元の形を残していれば、半分しか水に浸かっていない状態です。ただ、炉心溶融した際に、上の方から溶け出した可能性が高いので、現在、水面の上に出ている燃料棒があるかどうかは不明です。

圧力容器は、穴の開いたヤカンのようになっているので、溶けて固まって圧力容器の底にある核燃料は、一応、水の中です。圧力容器を溶かして、格納容器にまで達している分は、流れる水に洗われている状態でしょう。大量の放射性物質を溶かし出しながら。

原子炉本体に関しては、当初、圧力容器を水で満たす水棺を目指しました。しかし、容器の底に穴が空いているために不可能と判明。循環冷却システムの構築を目指していますが、漏水が多く、あっちこっちに溜まった汚染水を浄化して、なんとか炉心に水を注ぎ続けているというのが現状です。
これは綱渡りと言ってもよい状態です。何らか理由で注水が止まれば、冷えて固まっている核燃料が、崩壊熱でふたたび溶け出します。

チェルノブイリ事故では、2度の水蒸気爆発が起き、放射性物質がヨーロッパ全域とも言える広範囲に撒き散らされました。しかし、それでも想定された最悪の水蒸気爆発は避けられました。
チェルノブイリには4基の原子炉がありましたが、事故を起こした4号炉を含めて、すべて福島第1とは異なる黒鉛減速沸騰軽水圧力管型原子炉というタイプでした。従って、まったく同じようには語れないのですが、原子炉の底の部分に溶融した燃料が集まり、コンクリートの底を溶かし始めたのは、ほぼ福島第1と同じです(福島第1の圧力容器の底は鋼鉄製)。
そのコンクリートの下には、大量の水を蓄えた水槽がありました。ここに一気に溶融した核燃料が落ちたら、巨大な水蒸気爆発が起きます。水を入れたバケツに、真っ赤に燃える石炭をスコップ一杯でも投げ込んだらどうなるでしょうか。その大規模版が原発の水蒸気爆発なのです。
もし、この大規模な水蒸気爆発が起きていれば、残りの3つの原子炉にも被害が及び、放射性物質による汚染は数倍になっただろうと言われています。爆発を防いだのは、3人の男たちでした(ソ連軍の軍人と思われる)。彼らは潜水具を付けて、高濃度に汚染された水が溜まる水槽に潜り、水栓を抜いてきたのです(風呂の栓ではありませんから、実際にはバルブを開けたとか、そんな作業でしょう)。その後、予想通り原子炉の底のコンクリートが溶けて抜け、高温で溶けたままの核燃料が空になった水槽へと落ちました。最悪を越える最悪だけは避けられたのです。

ここでチェルノブイリの話を出したは、福島第1で、これに近い事態が起きる可能性が残されているからです。もし、何らかの理由で注水が止まれば、水の無い圧力容器内で、核燃料はほどなく溶融します。それが一気に圧力容器の底を溶かしたら、下で待っているのは格納容器の底に溜まった大量の水なのです。

考えてみれば、事故発生当初に起きていたメルトダウン(メルトスルー)の段階で、水蒸気爆発に至らなかったのは幸運でした。三つの原子炉はどれも一度は、圧力容器が完全に空焚きの状態になっていました。炉心溶融が、もっと激しく進んでいたら、ヤカンの底が丸ごと一気に抜ける可能性もあったはずです。下は格納容器に溜まった水。水蒸気爆発が起きます。今、圧力容器に空いている穴が、比較的小規模なもので済んでいるのは不幸中の幸いなのです。少なくとも、事故発生当初の段階で、「メルトダウン(メルトスルー)から水蒸気爆発」という最悪のシナリオは回避されました。しかし、今後もそれが起きないとは断言できないのです。恐ろしいのは、冷却水が止まることです。

さて、炉心での再臨界の可能性に話を進めましょう。
一つ前の記事で、再臨界が起きるかどうかは、固まった核燃料の「(ウラン235の)濃度」「大きさ」「形状」で決まると述べました。今、3つの原子炉の中で、核燃料は冷えて固まった溶岩のようになっています。巨大な塊もあれば、一抱えほどの大きさのもの、あるいは石ころのような状態になっているものもあるでしょう。
怖いのは、何かのキッカケで、それらが大きな集まりになることです。一つの塊なら臨界に達しなかったものが、二つ、すぐ近くに寄っただけで臨界反応が始まる可能性があります。例えば、冷却水の流れや、余震などによって、岩のような塊が転がって集まっただけで…
また、デーモン・コアの時のように、核燃料の上に、偶然、中性子を反射する物質が落ちてくるのも怖いです。
ちょっとしたキッカケで、核燃料は、簡単に臨界状態になるのです。

核燃料が再溶融して、ドロドロの一塊になった場合も極めて危険です。全体が臨界状態に達すと言うよりは、瘤状に盛り上がった部分(球に近い形状)や、例えば、広めの空間に流れ込んで、少しでも球に近い形でまとまった時、臨界が起きる可能性が高いのです。
何度か書いている通り、臨界状態になれば、大量の中性子線が出て、近くにいる人は間違いなく死にます。温度も飛躍的に上がるので、周りで様々な化学反応が起き、水素爆発の可能性が高まります。さらに、大量の核分裂生成物が生まれ、それがばらまかれます。

今、いくつかの悪い想定を積み重ねて、核燃料の再溶融や再臨界を論じていますが、福島第1の建屋や施設がボロボロになっていることを考えれば、心配しすぎとは言えません。
とにかく、冷却が止まらないように最大限の努力を続けること。そして、急造りの冷却システムの危うさをどう補うのかを考えないといけません。チェルノブイリで採用された石棺方式も、一つの選択肢かも知れません。

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