どうして暫定基準値の6.8倍もの放射性セシウムに汚染された牛肉が、スクリーニング検査をすり抜けてしまったのだろう?とてもシンプルな疑問ですが、答えにたどり着くために、大分時間を要しました。
結論は、今言われている「放射線スクリーニング検査」とは、体表に付いた放射性物質が出すベータ線量だけを計るものだったということです。要するにベータ線を発する放射性物質が体表に付いていないかどうかだけを調べるのです。
一般名詞としてのスクリーニングは「ふるい分け」とか「遮蔽」とか広い意味に使われますが、「放射線スクリーニング検査」は、ほとんどの場合、ベータ線だけを相手にする極めて狭い意味しか持っていなかったのです。調べた範囲では、このことが明らかにされていた報道は、一つしかありませんでした。一般の人に「放射線スクリーニング検査」の内容が理解されないのも当然です(ごく一部に、ガンマ線も調べる放射線スクリーニング検査もあるようですが)。
さて、肉牛の話に戻りましょう。
なぜ、体表で計ったベータ線だけでは駄目なのか?
問題となっている放射性セシウムの内、セシウム137は、崩壊する過程でベータ線とガンマ線を発します(より正確には、ベータ崩壊して放射性バリウム137になり、そのバリウム137がガンマ線を発して安定したバリウム137になるものが大半)。セシウム134も崩壊過程でベータ線とガンマ線を出します。
しかし、ベータ線(電子線)は生体内では、精々数cmしか進むことができないので、牛の体内に取り込まれた放射性セシウムが出すベータ線が体外に出てくることはないのです。一方、ガンマ線は透過力が強いので、一部が体外まで飛び出してきますが、放射線スクリーニング検査では、それを計っていない… 牛の体をきれいに洗ってさえあれば、スクリーニングはクリアできるでしょう。
私たちは、牛の皮を食べるわけではありません。問題は肉なのです。なのに、牛の内部被ばくをまったく想定していない検査態勢。これでは消費者も生産者も安心できません。
一方で、野積みされ放射性セシウムに汚染された稲わらを牛に与えた農家を責めるような報道も見られますが、これはまったく見当違いです。農水省の担当者は「屋外の飼料は危険だとあれほど報道されていたのに信じられない」と。なんと報道任せ。農水省のホームページを見ると、曖昧な注意喚起はありますが、本来なら、危険性のある地域に安全な飼料を十分に供給すべきだったはずです。
生産者の暮らしと消費者の安全を真面目に考える姿勢が、どこにも見えません。