「事故直後にテルル132を検出」
まず、聞き慣れないテルルという原子ですが、原子番号52(陽子の数が52個)、周期表で見ると右から3番目の酸素属に属します。安定して存在するのはテルル126(陽子52個+中性子74個)など。テルルはレアメタルの一つで、DVDの記録層やガラスの着色剤として欠かせないものです。
さて、問題のテルル132(陽子52個+中性子80個)は、中性子の数が多いため不安定な放射性物質です。半減期は約3日。半減期が3日ということは、自然界には100%存在することがなく、ウラン235の連鎖的核分裂反応によって生じる物質(核分裂生成物)です。
ベータ崩壊しますので、体内に入った場合、深刻な内部被ばくを引き起こす可能性があります(細胞に至近距離からベータ線を照射する)。ただ、プルトニウムのように肺に蓄積して肺ガンを引き起こすといった、細かいメカニズムまでは解明されていないようです。
このテルル132が、「3月12日の午前8時半過ぎ~午後1時半頃の間に、浪江町や大熊町、南相馬市で採取した大気中のチリの中から検出されていた」というのが、今回の明らかにされた隠蔽データのあらましです。
テルル132は運転中の原子炉の燃料棒の中で生まれ、通常は、それが燃料棒から漏れ出すことはないとされます。
…ならば、まず、テルル132の検出はメルトダウンの証です。3月11日の21時には、1号炉はメルダウンを始めました。溶けた核燃料は、圧力容器の底や、一部は格納容器にまで達しています。
そして、テルル132が、原発の外で検出されたのが「3月12日の午前8時半過ぎ~午後1時半頃」。まだ1号炉のベント前の段階です。浪江町は福島第1原発から6kmほど離れています。燃料ペレット・燃料棒被覆管・圧力容器・格納容器・原子炉建屋という「五重の壁」は、ベントや水蒸気爆発以前の段階で、すでに崩壊。絶対に漏れてはいけない物質が、外界に漏れていました。原子炉の安全神話が、まったくの空論に過ぎなかったことが明らかです。
そして、この事実はメルトダウンの恐ろしさをも伝えています。仮に、水素爆発や水蒸気爆発に至らなかったとしても、メルトダウンだけで「五重の壁」は、いとも簡単に破られてしまうのだと。そして福島第1では、メルトダウン+水素爆発という、決してあってはならない事態にまでなっています。
それにしても、東電と保安院の、この隠蔽体質はなんとかできないのでしょうか。
保安院スポークスマンの西山氏は「隠そうという意図はなかったが、国民に示すという発想がなかった」と語ったそうです。この一言は、心底腹立たしい。「すべての情報を公開する」という基本的な姿勢すらないのです。
当ブログで、何度か主張している通り、原発事故関連の情報は、原子力発電と利害関係のない第三者機関によって管理・監視されるべきで、基本はすべて公開です。
現状は、脇見運転で重大な交通事故を引き起こした加害者が、自分で現場検証している状態。自分に不利なブレーキ痕は明らかにしないのが当然と言えば当然なのです。
危機的状況だからこそ、すべての情報を公開して、普段は、原発に慎重であったり、反原発の立場をとっている科学者や技術者からも、広く意見を求めるべきなのです。