しかし、もはや東電も政府もメルトダウンを認めざるを得なくなりました。
そして、その恐ろしい事態が地震発生のその日の内に起きていたことが明らかになっています。
1号炉の3月11日を振り返ってみましょう。
● 15:30 津波の被害で炉心冷却機能全喪失。
↓
● 崩壊熱により冷却水が蒸発
● 18:00 燃料棒の頭頂部が冷却水の上に出始める。
● 19:30 燃料棒の一番下まで水位が下がり、「全露出」状態に。炉心は1800℃以上になり、燃料被覆管のジルカロイが溶け、二酸化ウランの燃料ペレットが圧力容器の底に落ち始める。
● 21:00 炉心や圧力容器の底に落ちた燃料ペレットが二酸化ウランの融点である2800℃を越え、メルトダウンが始まる。
● 翌6:00 すべての核燃料がメルトダウン。
原子力技術協会の石川迪夫最高顧問は「溶けた燃料棒は圧力容器の下部でラグビーボールのような形状に変形しているのではないか」 と言っていますが、「幸い」にも、ラグビーボール状にはなっていないでしょう。
なぜ「幸い」なのか… それを知るために、「燃料棒がなぜ棒なのか?」から考えていきましょう。
使用中の燃料棒には1%~4%のウラン235が含まれています。ウラン235が連鎖的核分裂反応(臨界反応)を起こすためには、ある程度の濃度で、ある量が一か所に集まることと、集まった時の形状が問題となります。球状に集まると臨界になりやすく、平らになったり、棒状になった場合は、臨界になりにくくなります。
炉心では、たくさんの燃料棒が狭い隙間を空けて束になった状態になっています。その隙間に中性子を吸い込みやすい物質でできた制御棒を入れるからこそ、臨界ギリギリで原子炉を運転したり、いざという時に短時間で臨界反応を止められるように設計されています。つまり、制御棒が入った時は、臨界が起きにくく、制御棒がない時は臨界が起きやすいと。このように、燃料棒と制御棒を綱渡りのようにコントロールしているのが、原子炉の炉心なのです(すべてが理想的に動くという想定の下に)。
さて、その燃料棒がすべて溶けてしまったら、隙間がなくなりますから、制御棒はまったく効果無しです。溶けた核燃料が圧力容器の底にラグビーボール状に集まったら… 恐ろしいことです。間違いなく臨界反応が起き、それも小規模なものでは済まないでしょう。日本の原発を推進してきた重鎮の一人である石川迪夫氏の頭の中に、その光景が浮かばないことが不思議でなりません。
原子炉はゆっくりとした臨界反応によって生じる熱を発電に使う装置です。原爆は瞬間的に起きる制御できない臨界反応によって生じる熱や放射性物質でたくさんの人を一瞬のうちに殺戮する兵器です。人間の制御下にない臨界反応は、絶対に起こしてはいけない恐ろしい事態なのです。
1999年、たった16㎏、バケツ一杯の核燃料(この時はウランを液体に溶かしていた)が起こしたJCOの再臨界事故ですら、2名の死者と667名の被曝者を出しています。
メルトダウンの第1の恐ろしさは、制御下にない臨界反応を引き起こして、巨大な熱エネルギーによって、圧力容器や格納容器を吹き飛ばし、放射性物質を広い範囲に撒き散らすことです。
今回は「幸い」にも、今までには大規模な再臨界は起きていません。では、いったい核燃料はどうなっているのでしょうか?
メルトダウンしましたから、一旦は間違いなく溶岩のようなドロドロの状態になっています。ここで思い出したいのは、圧力容器が鋼鉄でできていること。鋼鉄の融点は1600℃。2800℃で溶けている核燃料を支えることはできません。ヤカンの底に穴が開くように、圧力容器に穴が開き、溶けた核燃料が格納容器へと落ちていく様が目に浮かびます。
格納容器の底には水がありますから、そこで小規模な水蒸気爆発を起こしながら、固体に固まっていったはずです(ここで、もし溶融した核燃料が一気に格納容器に落ちていたら、チェルノブイリのような大規模な水素爆発が起き、今よりもっともっと深刻な事態になっていたでしょう)。火山の溶岩が海岸で水に触れて固まるのと同じようなイメージです。途中で水飴のように延びたりしたので、最終的に固まっている核燃料は、複雑な形をしているでしょう。急に冷やされたので、小さく割れている部分もあるはずです。これが、今まで「幸い」にも大規模な再臨界が起きなかった理由です。
しかし、「幸い」とは言え、そこにメルトダウンが引き起こす第2の恐怖があります。核燃料が、圧力容器や格納容器を溶かして、環境の中にむき出しになっているのです。放射性物質が、どんどん漏出していくのは言うまでもないことです。
そして、とりあえず固まっている核燃料によって、今後、再臨界が起きる可能性がないかというと、そうは言えません。理解すべきなのは、再臨界が起きるために温度は関係ないということです。ある濃度のウラン235が、ある分量、ある形で集まったら、再臨界は起きます。
圧力容器や格納容器の底で、一部、バラバラになって固まっている核燃料が、余震や、あるいは冷却するための水の流れなどで、どこかに集まった瞬間、再臨界が起きる可能性は十分にあるのです。
それを避けるために、3号炉からホウ酸の投入が始まりました。
ホウ酸(ホウ素)は、中性子を吸収するので、始まってしまった臨界反応を止めたり、臨界反応が起きるのを予防します。東電も政府も、再臨界を恐れざるを得ない状況は続いているのです。
追記:
3月11日からこれまでに、再臨界が起きていなかったのか?
結局、データは東電と国に握られていますので、どうにも判断しようのない部分はあります。ただ、爆発的な中性子線量が確認されていませんので、少なくとも、格納容器の外で再臨界が起きた可能性は低いと思われます。
ただ、2か月を経て、どうにも圧力容器の内部の温度が下がってこないのは、再臨界を疑わせます。溶けた核燃料は、全体で臨界状態に達するわけではありません。部分的にコブのように出っ張ったところ(球に近い形状になったところ)で再臨界に達する恐れもあります。
そして、事実を掌握するためには、情報管理を東電と安全・保安庁から切り離し、原子力発電に利害関係のない第三者機関に委ねるべきです。
現状は、脇見運転で大事故を起こした容疑者とその同乗者が、自分たちで現場検証をしている状態なのです。普通は許されない話です。スリーマイルアイランド事故でも、直ちに第三者機関が立ち上がり、当事者からは、すべての権限を取り上げたそうです。