「原子炉は五重の壁で防御されている」。この原子力安全神話の根底が崩れ去りました。
まず、最初に「五重の壁」とは何だったのか、今一度、まとめてみます。
●第1の壁=燃料ペレット。低濃縮ウラン(ウラン235の濃度が2%から5%)を酸化させた二酸化ウラン製。二酸化ウランの粉末を磁器のように焼き固めて作る。酸化させているのは、金属ウランの融点が1,132 ℃と低く、原子炉では使えないため。二酸化ウランの融点は約2,800 ℃。一つ一つのペレットは、直径1㎝、高さ1㎝ほどの円柱形をしている。通常は、核分裂反応で発生する核分裂生成物(放射性物質)をペレット内部に保持する。
●第2の壁=燃料棒被覆管。ジルコニウムという金属に、少量のスズやクロム、鉄を混ぜた合金=ジルカロイでできている。融点は約1,850℃。本来は、核燃料や核分裂生成物を燃料ペレット内に閉じ込める役割を果たす。
●第4の壁=原子炉格納容器。鋼鉄製やコンクリート製、あるいは鋼鉄とコンクリートの二重構造で作られている。福島第1では、厚さ約3㎝の鋼鉄製。
●第5の壁=原子炉建屋。鉄骨コンクリート製。コンクリートの厚さは1メートルから2メートルある。原子炉を守る最後の壁。東電や国は難しい説明をしていますが、始まりは地震と大津波によって外部電源と自家発電のシステムがダウンしたことです。原子力発電所の停電。こんな馬鹿げた出来事が、「五重の壁」を崩し、人類史に残る大事故につながっていきます。
電気がないと冷却水を循環させることができません。直前まで臨界運転をしていた原子炉では、残留熱や核分裂生成物の崩壊熱で燃料棒の温度がグングン上がっていきます。炉心を満たしていた冷却水はどんどん蒸発して水蒸気に変わり水位が低下し、燃料棒が水から露出。水が無いから、なおさら温度が上がり、1,850℃をオーバー。最初に溶け出したのは第2の壁=燃料棒被覆管です。
これに先立って、被覆管の附近では水素が発生しています。900℃くらいで被覆管の主原料であるジルコニウムが冷却水から酸素を奪って酸化ジルコニウムに変化し始めたのです。水から酸素が奪われれば、残るのは水素です。
燃料棒の周りで発生したこの水素が、圧力容器と格納容器をすり抜け、原子炉建屋の上部に溜まりました。水素は4%以上の濃度で酸素と同居すると、簡単に発火・爆発します。
何らかの火が引火して水素爆発。水素と一緒に、気化した核分裂生成物=ヨウ素131やクリプトン85、キセノン133なども漏れていますから、爆発で広く大気中に飛び散ったのです。特に3号炉の水素爆発は凄まじく、厚さ1メートル以上もあるコンクリート片が、空高く舞い上がっています。
(続く)