再臨界は起きているのか?

「再臨界は起きてるのか?」
3月11日以来、私は多くの友人から、この質問を受けてきました。私の答えは、「燃料棒が溶融した直後に、短い間、再臨界に達した可能性はあるが、今は起きていないだろう」というものでした。この裏付けは、東電から発表される中性子線の放射量が極めて低かったからです。小規模であれ再臨界が起きれば、中性子線量は跳ね上がると思われます。ただ、中性子線は遠くまでは飛んでこないので、どこで計るかという問題はありますが…

さて、再臨界に関する興味深い論文が出ました。アメリカの科学雑誌「Nature」のウェブサイトでも紹介されたようです。
原論文は、専門的な上、翻訳で読みにくいので、かいつまんで説明しましょう。
まず、1号炉のタービン建屋の溜り水から高濃度の塩素38が検出されたようです(このニュース自体が一般には伝えられていません)。この塩素38というのは、普通の塩素、つまり安定した塩素=塩素37が中性子を一つ吸収してできる放射性物質(放射性同位元素)で、その半減期は37分と短いものです。

普段、原子炉では、塩素と中性子が出会うことはありません。しかし今は、炉心を冷やすために海水を注入しています。炉心近くで海水中の塩素37が中性子を得て、塩素38になったことは間違いありません。半減期から推測するに、それはごく最近に起きたか、現在進行中のはずです。

炉心で中性子が出ているとしたら、その原因は再臨界がまず疑われます。溶融して銑鉄か溶岩のようになった核燃料の中で、ウラン235がある濃度で、ある大きさ以上の一塊になり、そこに水があれば連鎖的核分裂反応が起きます。これが再臨界です。ウラン235は、ストロンチウム90やヨウ素131・セシウム137などに分裂。大きな熱エネルギーとともに2~3個の中性子が飛び出してきます。その中性子が別のウラン235に当たり、核分裂を引き起こす。これが連鎖的に起きるのが臨界状態です。

溶融した核燃料が、どのような形で再臨界に達するのか、そのメカニズムは正確には解明されていませんが、核燃料全体で一気に連鎖的核分裂反応が起きるのではなく、溶岩のように溶けた核燃料の一部でウラン235の濃度が高くなり、連鎖的核分裂反応(再臨界)が起きると考えられています。部分的であれ、再臨界が起きているとすると、危険な放射性物質の生成がさらに進むのと、炉心の冷却は今まで以上に容易なことではなくなります。

今回の塩素38の検出に関して、「再臨界ではない」とする学者たちは、「ウラン235の核分裂反応の結果できたプルトニウム240(など)の自発的核分裂(連鎖的ではない)の際に発する中性子のせいだ」としていますが、紹介した論文の中では、「自発的核分裂が唯一の原因とするには、塩素38の濃度が高すぎる」と反論の反論をしています。

悔しいかな、私たちの手元には、問題の塩素38が、いつ、どんな濃度で検出されたのか、正確なデータがありません。
東京電力と原子力安全・保安院は、すべての地点での、すべての放射性物質の検出データを速やかに公開すべきでしょう。

ちなみに、たった16㎏、バケツ一杯の核燃料が起こしたJCOの再臨界事故ですら、2名の死者と667名の被爆者を出しています。
もし、1号炉で、今も再臨界が進んでいるとしたら、たいへん危険な事態と言えるでしょう。

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