人類史上最悪の海洋汚染(2)

では、核分裂生成物(放射性物質)の種類別に、この海洋汚染で危惧される内容を見ていきましょう。

●ヨウ素131
多くの方が、もう暗記してしまったと思いますが、ヨウ素131の半減期は8日と比較的短いものです。今現在、かなりの濃度のヨウ素131が漏出していますが、海水で拡散されるとともに、ヨウ素131は、ベータ線を出しながら、どんどんキセノン131に変わっていきます(さらに、そのキセノン131がガンマ線を出します)。「プランクトン→小魚→大きな魚」といった食物連鎖の環に入り込む前に、ヨウ素131は、ほとんどゼロになってしまうでしょう。
しかし、「半減期=8日」で安心してはいけません。ヨウ素131は、人間の体内に入ると甲状腺に集まり、甲状腺癌を引き起こします。同じように、海藻や魚介類に悪影響を与える可能性があります。特に、ヨウ素を大量に吸収し生体濃縮する海草類は心配です。

●セシウム137

セシウム137の半減期は約30年。1年や2年では、ほとんど減りません。生物は、セシウム137をカリウムと間違えて体内に取り込み、生体濃縮します。
農業はもちろん、園芸をやっている方なら、植物の三大栄養素=「窒素・リン酸・カリ」というのをご存じでしょう。カリとはカリウムのこと。植物だけでなく、動物にとっても必須です。

例えば、カリウムを欲しがる海藻や植物プランクトンがセシウム137を取り込み生体濃縮。それを食べた小魚の体内でさらに濃縮。さらに大きな魚を経て人間へ。生体濃縮と食物連鎖が掛け算のように相互作用しあって、私たちの身体の中に、ある程度の濃度でセシウム137が入ってくる恐れがあります。
カリウムの代わり取り込まれたセシウム137は、放射線(ベータ線)を出しながら血液に乗って身体の中を巡ります。特に肝臓や腸に影響を与える可能性があるとされています。

●ストロンチウム90
核分裂生成物の代表格でありながら、今回、まったくデータが発表されていないのがストロンチウム90(半減期=約30年)。情報が隠されている理由は不明ですが、ここではそのことには触れず、先に進みます。

生体は、ストロンチウム90をカルシウムと間違えて体内に取り込み、生体濃縮します。
日本では、「カルシウムを摂るなら牛乳か小魚」と言われてきました。海の中では、小魚がカルシウムと勘違いしてストロンチウム90を生体濃縮。私たちは、その小魚を食べることもあるし、食物連鎖のもっと上位にいる大きめの魚から、より濃縮されたストロンチウム90を摂取する可能性もあります。

人間の体もまた、ストロンチウム90をカルシウムと同じように扱いますから、ストロンチウム90は骨に集まります。骨の中にある骨髄には造血幹細胞が。造血幹細胞は、盛んに分裂し、赤血球や白血球、血小板などに分化しています。ストロンチウム90は、骨髄の中にある造血幹細胞にピンポイントで狙いを定め、放射線(ベータ線)を照射し続けると考えればよいでしょう。これが、ストロンチウム90が白血病を引き起こすメカニズムです。
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海の中での放射性物質の生体濃縮と食物連鎖の影響。過去のデータはほとんどありません。それは、福島第1原発の事故が前代未聞、人類史に残る大事故だからです。とにかく今は、放射性物質の漏出を止めること。そして、海洋汚染の進行をつぶさに観測しながら、可能な対策を実行する。残念ながら、これしかありません。そして、「不幸中の幸い」を少しずつ積み重ねていくことでしょう。

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