思い出してみましょう。かつて、これほど大量の放射性物質が海に流れ出したことがあったでしょうか?今回の事態は、間違いなく「人類史上最悪の海洋汚染」です。
海洋汚染と言えば、昨年の4月20日に起きたメキシコ湾の石油掘削施設が爆発し、約78万キロリットル(490万バレル)の原油が流れ出した大事故を思い出します。メキシコ湾の自然環境を大きく傷つけました。しかし、語弊を恐れずに言うなら、原油流出事故は、油を取り除いてある程度の時間が経てば、おおむね元に戻ります。
一方、放射性物質はどうでしょう?なんともやっかいなのは、取り除く術がないということです。福島では完全に崩れ去ってしまいましたが、原発事故対応の基本は「止める。冷やす。閉じ込める」です。なぜ、「閉じ込める」なのかというと、大気中や海に漏れ出してしまった放射性物質は、自然に減っていくのを待つしかないからです。一般の毒物のように、中和させたり、無毒化したりすることは不可能なのです。
海に流れ込めば薄まっていくのは確かです。しかし、忘れてはいけないのは、生物は特定の物質(原子)を濃縮する生体濃縮という能力を持っています。それは、見方を変えれば栄養を体内に貯めていく行為。生物が生物であり続けるための機能です。悲しいかな、放射性物質はこの生物としての基本的な機能の逆手を取ってきます。
今回の事故は、人類が直面する初めてのタイプの事故(放射性物質による大規模な海洋汚染)なので、放射性物質の海での拡散の仕方や、魚介類の生体濃縮に関するデータは、ほとんどありません(多少参考になるとしたら、イギリスのセラフィールド再処理工場の一件か)。
東電も保安院も、無責任に「海に流れこめば薄まるから大丈夫」と言っていますが、その裏付けはありません。
(続く)